堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
『瑠璃』
大好きなザッハートルテよりも甘く、体の芯まで蕩けるようなあの人の声に呼ばれた気がして、まぶたを開いた。
ウィーンで一番の五つ星ホテルの一室。クラシカルな深紅のカーテンの隙間から、明るい陽ざしが降り注いでいる。
「朝……?」
ベッドの中で小さく呟いて、視線を動かす。天井には、アンティークの豪華なシャンデリア。壁には、金の額縁に入った美しい絵画。精巧な細工を施された机やドレッサーなどの家具は、すべてが美術品のよう。
『すごい、お城みたい……!』
昨夜の私は、そうはしゃいだっけ。でも、そんな子どもっぽい私に呆れるでもなく、むしろ愛おしむような目をした彼に見つめられて、私は――。
そこまで思い返したところで、この部屋に彼の気配がないことに気がつく。
「……志門さん?」
名前を呼びかけながら、ベッドを降りる。その時ようやく自分がなにも身につけていないことに気づき、慌ててシーツを体に巻きつけ、彼の姿を捜す。
しかしどこにも彼はいなくて、何気なく窓辺に近づいていったその時。そばにあった机の上に一枚のメモと名刺が置かれていることに気づき、私はまずメモを手に取った。