堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
タクシーで彼の泊まるホテルに移動すると、そこは見覚えのある場所だったので驚いた。
広々として豪華絢爛なロビー。そこは昼間、彼とザッハートルテを食べに来たカフェのある、あのホテルだったのだ。
呆気にとられる私に構わず志門さんがフロントで手続きを済ませると、私たちはボーイさんに部屋まで案内された。建物の五階にある、おそろしく優雅な部屋だった。
舞踏会が行われていたあの王宮の客室も……いや、それより王様やお姫様が寝起きしていた部屋がきっと、こんなふうだったのではないだろうか。
「すごい、お城みたい……!」
夢見心地で部屋を見渡していると、入り口のそばでボーイさんと言葉を交わしていた志門さんが、話しを終えてボーイさんを帰してから、私のもとへ歩み寄る。
「気に入った?」
微笑みながら問われて、私は迷わず頷く。
「もちろんです。こんなところに泊まれるなんて、志門さんって、とてもすごい建築士さんなんですね」
「大したことないよ。それに今は、肩書も年齢もない。たった一人の女性に心奪われて理性を失いかけた……ただきみを欲しがる一匹の雄だ」
切なげな声音でそう語った彼が、私の耳の脇にスッと大きな手を差し入れる。心臓がドキン、と大きく脈打ち、王宮でキスを交わした時のような甘く濃密な気配が、私たちを包み込んでいく。