堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
2*癒えない傷を抱えて
「ありがとう瑠璃。こんな素敵な手鏡もらったら、お母さん今より美人になっちゃう」
「ふふ、よかった~喜んでもらえて」
帰国した日の夜、私は家のリビングで母にお土産を渡していた。ウィーンには、当初の予定だった四泊五日そのまま滞在したけれど、どこへ行っても楽しい気分にはなれず、お土産を買うことすら億劫だった。
とはいえ、ウィーンで自分の身に起きたことを正直に家族に話すわけにもいかないので、沈んだままの気持ちをなんとか奮い立たせて、家族とバイト先にだけ、お土産を買ってきた。
母には、伝統の刺繍工芸が施されたかわいらしい手鏡とチョコレート、兄には地ビールとグラスのセットだ。
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんだ。おかえりー!」
母をリビングに残して立ち上がった私は、玄関で仕事帰りの兄・浩介を出迎えた。
都内の玩具メーカーに勤める兄は私より三つ上の二十五歳。
百七十八センチと高めの身長で、黒髪をセンターで分けたナチュラルなヘアスタイルにきりっと男らしい顔立ちは、我が兄ながら、なかなかイケメンだと思う。