堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

 しかし、あくまで黙っていれば……の話だ。私の顔を見るやいなや、兄は今まで引き締まっていた男らしい表情を、へらっとだらしないものに変えた。

「瑠璃~、やっと帰ってきたか! お兄ちゃんは心配で心配で……」

 靴を脱いで廊下を上がり、私にギュッと抱き着く。他人が見たらぎょっとしそうな兄妹愛だが、私にとっては想定の範囲内だ。大きな体を優しく受け止めながら、私は話す。

「うん、ただいま。それとありがとう。ウィーン、行かせてくれて」

 兄はずっと私のひとり旅に反対していて、それでも最後には私の意思を尊重してくれた。反対する理由もわかっていたからこそ、その気持ちがうれしかったんだ。

「楽しかったか?」
「……うん。すごく綺麗な街だった」

 ほんの少しだけ返事が遅れてしまったけれど、兄は気に留めなかったようだ。私の頭をよしよしと撫でて、満足したように体を離す。

「よかった。ずっと行きたいって言ってたもんな」
「ちゃんとお土産も買ってきたよ、お兄ちゃんの大好きなビール」
「さすがは俺のかわいい妹。最高のチョイスだ」

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