堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
ベクトルは違うけれど、ふたりの中にあるのは同じ優しさ。そんな彼らに感謝の意味も込めて、本当なら、もっと心から『楽しい旅行だった』と言えるはずだったんだけどな……。
お土産話に花を咲かせつつも、ウィーンで負った心の傷はそう簡単に癒えそうになく、私はどこか無理して笑顔を作るのだった。
翌日は旅行直後ということもありバイトも入れていなかったのだけれど、家にいたら腐ってしまいそうだったので、お土産を持ってバイト先に向かった。
私の職場、中欧菓子専門店『Elisa』は、洋菓子激戦区の自由が丘にある。
駅からは徒歩十五分と少し離れているけれど人気は高く、毎日行列ができるし、閉店前にすべての商品が完売して早々とお店を締めてしまう日もしばしば。
お昼過ぎから夕方にかけてが一番混雑するので、それより前にお土産を渡してしまおうと、十一時頃に店の裏口から入って、休憩室を覗いた。
「お疲れ様でーす」
「あっ、瑠璃ちゃんだ、お帰り~!」