堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
1*運命の仮面舞踏会
私、神谷瑠璃は、都内の文系大学に通う四年生。成績はそこそこで、就職もまだ未定。
でも、バイト先の中欧菓子専門店のオーナーパティシエが『就職が決まらなかったらそのままウチで働けばいい』と言ってくれているため、危機感はまったくない。
それどころか、その店でウィーン菓子の魅力に取りつかれてしまったせいで、就職活動なんかより、現地で本場の味を食べたい! そんな時間があるのはきっと、大学生活最後の今だけだ!と妙な情熱に駆られた私。
そこで、長い夏休みの前半はバイトにいそしみ、九月に入ったところでバイト代をごっそり下ろして、ウィーンへのひとり旅を決行することにしたのだった。
「ここが、憧れのウィーン……」
現地時間十一時頃。成田からドバイを経由する格安便で、ウィーン国際空港に降り立った。移動だけで二十時間を超える長旅にも疲労を覚えることなく、私の胸は人生で一番と言っていいほど高揚している。
初めての海外旅行が欧州だなんてちょっと背伸びしすぎたかもしれないけれど、行かずに後悔するよりはいい。
目当てのお菓子はもちろん、ウィーンについて調べるうちに知った豪華な王宮や美術館、歴史的音楽ホールでのオペラ鑑賞など、楽しみたいことが盛りだくさんだ。