堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
しかし、ウィーンで出会った頃とは別人のように冷たい彼に『これで子どもを堕ろしてくれ』と大金を渡される想像が頭に勝手に浮かんできて、結局怖気づいてしまう。
たぶん、舞踏会の日にも、ドレス用にと彼から大金を受け取った記憶があるからだろう。ちなみにあの時のお金は一銭も使わずに、封筒に入れてとってある。
ドレスショップの店主、ソフィーが気を利かせて、学生の私でも払える額におまけしてくれたのだ。
なのに、返すタイミングを見つけられなくて、お金はいまだに私の手元にある。
これを返したいからと連絡するだけならできそうな気がするが、実際に約束を取り付けて彼に会うのが怖い。
記憶の中にいる優しい志門さんが、あの夜だけの幻想だったのだという現実を突きつけられたら、私はいよいよ立ち直れない。
だからって、いつまでもひとりで抱えていられる問題じゃないのはわかってる。わかってるけど……。
堂々巡りを繰り返し、一歩も前に進めないまま、私は大学とバイトに復帰した。
座って話を聞いていればいい大学の授業は、マスクをして周囲の匂いを遮断すればなんとか受けられたのでよかったが、問題はバイトだった。