堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~
入国の手続きを終え、手荷物を受け取ると、アーチ型の通路を歩きながら、キョロキョロ辺りを見回す。小ぢんまりとした空港ではあるが、お土産ショップやカフェ、レストランなどの施設も充実している。
すれ違う大勢の旅行者やビジネスマンは人種や肌の色も様々で、異国に来てしまったんだという緊張感が高まる反面、誰も自分を知る人はいないという開放感が心地よくもあった。
「ええと、駅は……」
なにをするのも自由なひとり旅だが、とりあえず、市内へ移動したい。タクシーやCATと呼ばれる特急電車だと高くつくため、時間はかかるが運賃の手頃な国鉄、Sバーンを利用しようと決めている。
案内板でそのホームを探し、スーツケースを転がしながら歩き出した時だった。私は偶然にも、目の前で置き引きが行われる瞬間を目撃した。
そこにはベンチがあり、背の高いひとりのビジネスマンがスマホで電話をしている最中、荷物から目を離した。その一瞬の隙に、ビジネスマンの小ぶりなスーツケースを、通りがかった黒いフードの男がしれっと持ち去ったのだ。
フードの男は周囲を警戒しながら、早歩きで人混みに紛れていく。