愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
堀岡さんのお店を出ると、雨はすっかり上がっていた。相合い傘は私達の距離を近くしてくれるだけではなく、顔を隠してもくれてたのだが、仕方がない。私達は足早に次の目的地に急いでいたのだが・・・。


「あぁ、お前、Eの塚原じゃねぇか!」


ご機嫌な様子で前からやって来たオジさんが大声を出す。


「なんだお前、女連れで、結構なご身分だな。そんな暇あったら、もっと練習に精出せ。この月給泥棒が!」


仙台市民は街を挙げて、Eを応援してくれているが、今はケガ人も多く、チームは低迷中。可愛さ余って憎さ百倍の言葉の通り、こんな心無い罵声を浴びせて来る人もいる。


聡志を見ると、顔を真っ赤にしているけど、こんな酔っ払いを相手にしても仕方ないので、当然黙っている。


「全く何が二刀流だ、聞いて呆れるわ。少しはテメェの能力をわきまえろ!」


「ちょっと止めろよ。すいません、コイツ酒癖が悪くて。」


それをいいことに、更に何か言って来る酔っ払いを同行者が慌てて抑え、私達に頭を下げる。


「いえ、耳の痛いお言葉ですよ。みなさんのご期待に少しでも早く応えられるように、練習に励みますんで、これからも応援よろしくお願いします。じゃ、失礼します。」


そんな彼らにそう言って、頭を下げ返した聡志は、私の手を引いて、早足で歩き出した。周囲の人達からの同情と好奇の視線に見送られた私達は、逃げるように私の宿泊しているホテルに向かった。


人目を気にしながら、フロントでキーを受け取り、エレベーターに乗って、部屋に向かう。別に悪いことしてるわけじゃないのにと思いながら、でも結局急いで部屋に飛び込んでしまってる自分達が悲しい。


「ゴメンな、お前に嫌な思いさせちまって。」


部屋に入った早々、そう言って私に謝る聡志。


「ううん。私は大丈夫だけど、聡志は悔しいよね、あんなこと言われてさ。」


憤慨する私に


「悔しいが、ファンとケンカするわけにはいかないし、それに仰せごもっともって言うしかないねぇからな、今の俺じゃ。」


「聡志・・・。」


と自嘲気味に答える聡志に、私は胸をつかれる。
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