愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
梅雨が過ぎ、暑い夏が今年もやって来た。だけど、夏物の動向は芳しくなかった。


私のいるアパレル業界は、全体的に売り上げがダウントレンドであることは否めない。繊維の高品質化で服の寿命が延びているのに加え、ファッションをリードするはずの10代20代のいわゆるヤング層が、少子化の影響で減少している。


ただでさえ、小さくなっているパイを奪い合う競争の激化に加え、今年は梅雨が長引き、夏物の出足の動きが鈍かった。


やっと梅雨が明けたのが7月も中盤を過ぎた頃。マーケットはもうセールの名を借りた1弾目の夏物処分と秋物投入の準備に入らなくてはならない時期になっていた。


「処分を前倒ししないと。」


本社からは傘下のショップに、例年より早めの商品の値下指示が飛んでいた。


「秋物は大丈夫なんだろうな。」


なんて声も上層部からは聞こえて来る。全般的に苦戦の業界の中でも我がグループの不振は、同業他社と比べて深刻なようだ。


平賀さんやノムといった営業担当は親会社からの風当たりが強くなっていた。


彼らが持ち帰って来たデータや本社の要望(実質的には指示)をもとに私達デザイナーも対策会議を開く。


もっとも晩夏から秋初頭の商品の生産は着々と進んでおり、もはや店頭に並ぶのを待つばかりの段階。デザインの手直しが間に合うとしても晩秋〜冬物、それだって、今からじゃ限定的なものにならざるを得ない。


「手直しと言われても、こちらもある程度自信を持って作った商品です。結果が出る前から、そんなこと言われても・・・。」


「俺達が自信を持って作ったデザインの商品の動向が、現実に良くないんだ。春夏物の動向から見えてくるものがあるはずだ。それを今後に少しでも活かす努力をしないで、どうするんだ!」


ある日の会議で、不満を述べる陽菜さんを平賀さんが怒鳴りつけた。アパレル業界のメインターゲットである20代女子のそれもカジュアル商品のデザインの責任者である陽菜さんに対する風当たりは強まる一方だったが、それにしても、少なくても私が入社してからは、お目にかかったことがない光景だった。


「平賀さんは変わった。あの人はもうデザイナーじゃない、ただの営業マン。私達デザイナーの気持ちなんて、全然わかってないんだよ。」


その日の夜に夕食がてら、呑みに行った席で、陽菜さんはこうぶちまけた。
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