愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「私達デザイナーがどんな思いで、どんだけの労力をかけてデザインを作り出しているのか、あの人忘れちゃってるんだよ。」


陽菜さんとアダルトと呼ばれる3、40代女子カジュアル担当デザイナー岡嶋君枝(おかじまきみえ)さん、私、それになぜか黒一点(?)のノムの4人での席。


「私達はさ、昼も夜も、仕事中はもちろん、休みの日だって、怠りなくアンテナ張って、ファッションリサーチに努めてるんだよ。それでもうまく行かない時だってあるよ、ね。」


陽菜さんの言葉に相槌を打つ岡嶋さん。


「お言葉ですが・・・みなさんがそういう努力をされてるのは、確かだとは思いますけど、しかしその結果が売れないということであれば・・・。」


そんな2人に恐る恐るといった感じで反論したノム。


「なに、じゃ私達の努力が足んないってこと?」


「僕達の世界は、やっぱり数字が全てなんで・・・。」


「なんですって!」


途端に岡嶋さんの怒号が飛ぶ。その声にクビをすくめるノムとなぜか私・・・。


「1年やそこら、営業ちょこちょこっと、やったくらいで、わかったような口きくんじゃないよ。だいたい平賀も営業部長なんて肩書もらって、ふんぞり返るようになってから、おかしくなったのよ。」


岡嶋さんは平賀さんとは同年代だから、平然と呼び捨てだ。


「そうね。最近は本社の顔色伺ってばっかりだもんね。」


それからも2人は平賀さんや会社、更には本社への不平不満をたっぷり語り、そして呑んだ。半ば無理矢理付き合わされたノムは完全にスケープゴートであり、2人のお姉様からの風当たりを一身に受けて、ただただお気の毒としか言いようがなかった。


途中、助けを求めるかのように、何度か視線を送られたのは感じてたけど、とてもとても口を挟めるような雰囲気ではなく、私は完全に空気。ゴメンね、ノム・・・。


結局、その後のお姉様方からの「もう1軒」をなんとか丁重にお断りして、私とノムは家路についた。


「あの人達は何にもわかってない。部長がどれだけ苦労して、あの人達の盾になっているか。俺だったら、ふざけんな、とにかく売れるデザイン作れって言っちゃうけど、デザイナーの平賀部長には、そんな言い方、絶対に出来ないんだよ。」


「わかってる。平賀さんは根っからのデザイナーだもんね。でも陽菜さんだって、悩んでるんだよ。ノム、それはわかってあげて。」


「岩武は板挟みだな。」


「ノムほどじゃないよ。」


そんなことを話してるうちに、駅に着いた私達は


「じゃ、また明日。」


と挨拶すると、それぞれのホームに向かった。
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