愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
それから、私達は夏物の動向に一喜一憂しながら、日々の業務に勤しんでいた。


今年は加奈と予定が合わず、大学時代の友人との旅行や仙台に聡志を訪ねたお盆休みを経て、いよいよ秋物投入の時期が近づいて来た。


「秋物については、例年より早めの時期に展開をスタートさせる。」


との本社の方針に基づいて、2週間ほど早く、秋物商品が各ショップに投入された。


気温はまだまだ暑い中、先手必勝とばかりに、前面に秋物商品が展開された系列ショップを私も何件か見て回った。


さすがにまだ、お客さんの付きは悪いけど、ビシッと立ち上がった売場の中に自分のデザインした商品を確認した時には


(いよいよだな。)


と背筋が伸びる思いがした。


そして、9月の声を聞き


(暑さはもういいよ、早く涼しくなれ。)


と詮無いことを願いながら、天気予報とにらめっこする日々。


「そろそろ行こうか。」


「はい。」


そんな中、陽菜さんに声を掛けられた私は、一緒にオフィスを出る。この日は、本社の井上バイヤーとの来年の春夏物の商品制作に向けての最終打ち合わせ。


この日は平賀さんも向こうのチーフバイヤーも同席しないので、3人だけのミーティング。どんな雰囲気になるのか、ちょっとドキドキだ。


「当たり前ですけど、私達が為すべきことは、売れる商品を開発、制作することです。おわかりですよね。」


「はい。」


「だから、その為には、おふたりのデザイナーとしてのこだわりや好みを捨てていただくことも、当然出て来ます。」


席について早々、相変わらずの厳しい口調で、井上さんはこう切り出した。


「まず、こちらからの提案と言いますか、要望なんですが。」


そう言って私と陽菜さんの顔を交互に見た井上さんは


「岩武さんがデザインを担当する商品の比率を上げてください。」


と言った。


「それは、もともとそのつもりです。」


それに対して、陽菜さんは答える。前期の秋冬物の時は、私はデビューだったので、とにかく1つ、自信のあるデザインを製作するように、陽菜さんからも平賀さんからも指示されていた。


今回は2割は由夏にやってもらうから、既に陽菜さんからはそう伝えられていた。ところが


「出来れば丸山さんと岩武さんで半々くらいでお願い出来れば、と思います。」


と言う井上さんに言葉に、私は思わず固まってしまった。
< 113 / 330 >

この作品をシェア

pagetop