愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
翌日の夜、俺は仙台に戻った。


秋季練習期間がまだ終わってなかったからだが、今年は12月に入っても、仙台に残る。


クリスマス前には、神奈川に戻るつもりだが、それまではこっちで練習を続けるつもりだ。昨年の二の舞は踏みたくないから。


それにもう1つ、考えて考え抜いて決めたことがあった。選手寮を退寮することにしたのだ。


寮に居れば、練習場には近いし、食事の心配もない。至れり尽くせりの環境と言って、差し支えないのだが、それが甘えに繋がってしまっている気がしてならない。


何かを変えなきゃならない。悩んだ挙げ句、前回の契約更改の席で球団側に申し出た。実績がないとは言え、大卒2年目の選手の決断に、球団が四の五の言ってくることはなかった。


もっとも大学から数えると、寮生活ももう6年。そろそろ独り立ちしたいという思いもあったし、1番大事なのは、由夏がこっちに来た時に泊まれるという事実だ。


「本当?よかった、これでもう少し気軽に行けるようになるな。」


報告すると、由夏も喜んでくれた。ということで、引っ越しもしなければならないのだ。


そんな帰りの新幹線の中、流れ行く景色を眺めながら、俺は先日の白鳥先輩の結婚式二次会での、ある男との会話を思い出していた。


神尚人、高校時代の同期で、俺達の代のキャプテンだった。


俺の同期達は、ほとんどが高校卒業と同時に野球を辞めてしまった。一応、甲子園を3季も経験した世代だったのに、沖田らレギュラー経験者も、あっさり辞めたのは、俺としては結構ショックだった。


そして、今日まで現役を続けているのは、俺と神だけ。


「俺達の野球選手としての思いと夢はお前達に託した、頼んだぞ。」


沖田からそんなことを言われたのを、思い出す。


とにかく、にぎやかにはしゃいでいた記憶しかない二次会。そんな合間に、神は本当にさり気なく、俺の横に座った。


「おおキャプテン、呑んでるかぁ?」


「ああ。でもあんまり羽目外すなよ、今日はただの飲み会じゃない、二次会とは言え、白鳥先輩の結婚披露宴なんだから。」


「わかってるよ。」


「ちょっと、いいか?」


「えっ、あ、あぁ。」


いつもは決してノリの悪い奴じゃないのに、何か違う雰囲気に、俺は思わず、神の顔を見てしまった。
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