愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
仙台に戻って、まもなく11月が終わって師走に。プロ野球界はオフシーズンに入った。


練習を共に続けていた仲間達も1人、また1人とグラウンドを去って行く。それと同時に寮も徐々に閑散として来る。


「聡志。」


11月最後の日、小谷コーチから声が掛かった。この1年、俺がキャッチャーとして過ごす時間が多かったこともあるが、小谷さんとはちょっと疎遠、というのも変だが、ハッキリ言って、破門に近い扱いをされていた。


自覚のなさから、結果今シーズンも振るわなかった俺に対して、小谷さんは失望し、怒っていた。それは期待の裏返し、俺は自分への情けなさと小谷さんに申し訳ない気持ちで一杯だった。


「来年は勝負の年だからな、わかってるな?」


小谷さんは、単刀直入に言って来た。


「お前みたいな甘ちゃんが寮を出るなんて、10年早いと思ってるが、大の大人が決めたことだ。俺がとやかく言う筋合いじゃない。」


「はい。」


「結果は全部お前に跳ね返ってくる。とにかく、そろそろ腹、括れ。」


「コーチ。」


「じゃぁな、良いお年を。」


最後に、いささか気の早い挨拶を残して、コーチは去って行った。


(腹括れ、か・・・。)


コーチの後ろ姿を見送りながら、俺は心の中で、小谷さんの言葉を繰り返していた。


そして、俺はトレーニングを続けた。数は少なくなったが、練習パートナーには不自由しないし、ウェイトトレーニングを始め、1人でやれることもたくさんある。


そして、その合間を縫って新居探し。寮は年内で引払わなければならないから、のんびりはしていられない。


「将来、私も住むことになるかもしれないんだから、一緒に探そう。」


なんて、由夏は言っていたが、師走の今の時期に、なかなかこっちに来る暇はないようだった。


将来を見据えて、2人で暮らせる広さで家賃や練習場へのアクセスも・・・なんて考えていると、思ったより手間取ってしまい、結局引っ越しが完了した時にはクリスマスが過ぎてしまっていた。


彼女には当然、ブー垂れられ


「じゃ、私が手伝いがてら、そっち行くよ。」


それが無理なのは、自分がいちばんよくわかってるくせに、そんなことを言っている由夏が可愛かった。
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