愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
夕食は


「明日に備えて、スタミナ付けて貰わなきゃいけないからね。」


と、昨日とは一転、ガッツリ系。もっとも登板日前日は食欲もなく、あっさり系を好む人もいるから、これは人それぞれ。


そして、夜は、これも人それぞれだろうが、基本的にはおとなしく、明日に備えて休む人が、やっぱり圧倒的のようだ。


「私、ソファで寝ようか?」


気を遣って、そんなことを言ってくる由夏に


「大丈夫だよ。せっかく来てくれてるのに、ソファでなんか寝かせらんねぇし、むしろ、側に居てくれる方が癒やされる。由夏は俺の精神安定剤なんだから。」


と答えると


「うん。」


と嬉しそうに頷いて、俺の横に潜り込んで来る。ペッタリ引っ付いてくる恋人を抱き締め、その柔らかな感触と芳しい香りに安らぎながら、俺は眠りについた。


そして、試合当日。俺がブルペンで、最後の調整で投球練習をしていると、小谷コーチが入って来て


「聡志、今日は御前試合か。」


と言って来る。小谷さんも、もう由夏の顔を知っていて、スタンドのあいつを目ざとく見つけたらしい。


「はい。」


「じゃ、今日は完封がノルマだ。彼女に男、見せてやれ!」


とハッパをかけられると、尻をポーンと叩かれた。


そして試合は・・・完封とはいかなかったが、7回を2失点で投げ終え、リリーフが踏ん張ってくれて、見事勝利投手に。


「やっぱり今日は別人だな。これから毎回彼女に来てもらえ。そしたらすぐに一軍だ。」


なんて、小谷さんに冷やかされた。


試合が終わり、スタンドからの声援に応えていると、由夏が小さく手を振っている。


(やったぜ。)


(うん、おめでとう。)


心の中で、そんな会話を交わすと、彼女が席を立つ。そろそろ列車の時間が近い。これでまた、しばしのお別れだ。


試合後のミーティングなども終わり、球場を後にした俺が携帯を開くと、由夏からLINEが。


『聡志、お疲れ様。最高のお土産をありがとう。これで、明日からまた頑張れる。聡志も頑張ってね、また来るよ。』


実際には、絵文字も入って、もっと可愛らしい文章だったけどな。


あっと言う間の4日間、でも楽しかったし、幸せだった。こんな結婚生活の予行練習みたいなことが出来るようになったんだから、やっぱり寮を出てよかったとしみじみと思った。


調子も悪くない、全ての歯車がうまく噛み合い出した。イケる、今年こそ必ず一軍へ。そんな自信が漲る自分を感じていた、はずだったんだが・・・。
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