愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
長谷川に聞いたら、彼女も夕飯がまだだと言うので、俺達は近くのファミレスに入った。


「すまねぇな、こんな所で。」


「別に大丈夫だよ、私が急に訪ねたんだし。それにオシャレな所とか、連れて来てもらったら、岩武さんに悪いもの。」


その言葉に、また俺が複雑な思いを抱いていると


「お腹すいちゃったね、早く入ろうよ。」


長谷川は店にスタスタ入って行くから、俺も慌てて後に続いた。


注文を終え、改めて向き合った俺達。


「私、都市銀行に就職したんだけど、今月頭から、こっちに転勤になって。」


「えっ?」


「都市銀は、女子でも全然、全国転勤ありなんで。就職して、2年ちょっと経ったんで、そろそろ動くかななんて、思ってたら、まさかの仙台支店で。」


そう言って、少し苦笑いの長谷川。


「じゃ、長谷川もやっぱり縁があったんだ。」


「というか、私が仙台出身だってことは、銀行も当然承知だから、そこは考慮されたんだろうね。」


「なるほど。」


「それに、実は父が今、1人でこっちに居てね。」


「えっ、そうなの?」


「うん、ご承知の通り、ウチの両親が離婚した時、兄は父に付いて、こっちに残り、思春期真っ只中で父親大嫌い娘になっていた私は、母に付いて神奈川に引っ越した。そのあと、兄は、大学に入って上京したまま、あっちで就職してしまって。結局、父がこっちで、1人取り残された形になっちゃったの。」


「なるほどね。」


「でも、この齢になると、父親への嫌悪感もだいぶなくなって来て、どうしてるかなぁって心配してたんだ。そこへ、この話が来て、さすがに一緒に住むのは、ちょっと気が進まないけど、近くに住んで、様子見てあげられれば、ちょうどいいなぁと思ってね。」


「そうか、じゃよかったな。」


「うん。それに仙台には塚原くんが居るから。」


「えっ?」


「落ち着いたら、会いに行こうと思ってた。今日は、仕事が早く終わったから、思い切って来てみたんだ。もう練習終わって、帰っちゃっただろうなって思いながら、一応職員の人に聞いたら、私が高校の時のクラスメイトだって、名乗ったせいか、まだ練習してますよって、親切に教えてくれたんで、待たせてもらったんだ。」


「そっか、悪かったな。」


俺は一応、そう答えたけど、長谷川が何故、俺にわざわざ会いに来てくれたのかが、実は釈然とはしていなかった。
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