愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「おっ、また来てる。」


「えっ?」


「ほら、見てみろ。ベンチのすぐ上の席。綺麗な子が座ってるだろ。」


「えっ、あ、あぁ・・・。」


試合前の練習が終わり、ベンチに引き上げる途中で、先輩の内野手、菅沼茂樹(すがぬましげき)さんから声を掛けられて、スタンドを見た俺は、思わず複雑な声を出す。


「先週の土日も来てて、今日も来てる。」


「そうなん・・・ですか?」


「おぅ。ちょうど俺の守備位置から、バッチリ見えるとこだからな。嫌でも目に入るぜ。熱心だな、誰かお目当ての選手がいるのかな?」


「・・・。」


「それとも誰かの彼女かな?先週も来てたってことは、ウチの選手のって、ことだよな。畜生、だとしたら羨ましいな。」


「すいません、俺ブルペン行くんで。」


「お、おぅ。」


1人で盛り上がっている菅沼さんに、そう告げると、俺は先輩から離れた。お察しかもしれないが、先輩が目を付けた子は、長谷川だ。


再会してから、長谷川からは毎日のように連絡がある。話題は他愛のない話、Eファンというのは、本当のようで、チームメイトのことなんかも、いろいろ聞いて来る。


そしてその週末は、さっきの先輩の話通りに、土日2日間共、球場に現れ、熱心に観戦していた。小学校の時は、自分でプレーしていたくらいだから、野球が本当に好きなんだろう。


そして、週明けの埼玉遠征を挟んで、昨日から地元に戻った3連戦。2日目の土曜日、彼女はまた現れた。7月も後半に入り、二軍は陽射しも厳しいデーゲームだ。観戦には厳しい環境だが、熱心に応援してくれる長谷川は、ありがたいとは思う。


だが、1回1回の時間は、そんなに長くないんだが、その連絡頻度は、由夏より多くなっている。無下にはしたくないが、いささか困惑を感じているのも、確かだった。


もっとも、試合が始まってしまえば、由夏とは違い、長谷川の視線を気にすることは、ほとんどない。


この日の試合は、こちらが終始優位に進め、大量リードを奪ったこともあり、終盤の8回、俺は久しぶりにマウンドに上がった。


試合中のキャッチャーからピッチャーへの転身(ちなみに、逆は絶対無理)は、やはり観客の大歓声を浴び、長谷川も拍手を送ってくれた。


そして、その回を無難に0点に抑えた俺は、歓声を背にベンチへ戻った。
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