愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
10月。ショップの装いが、完全に秋にシフトし、ニットが前面に打ち出された頃、その報は何の前触れもなく、私達の耳に飛び込んで来た。


本社が、自社商品のデザインをウチの会社に独占的に請け負わせて来た契約を、来年3月31日をもって、解消すると言うのだ。


珍しく、朝から出社して来た所長が、朝礼で話し出したら、思ってもみなかった内容に、オフィスは騒然となった。


「それはどういうことですか?」


「要するにJFCは、完全に取引先の1つとして扱われることになる。現在の体制は、事実上、社内デザイナーを抱えているのと変わらない。それでは、JFCを別会社として独立させた意味がない。今後はJFCだけでなく、他のデザイン会社との取引を拡大することによって、より良い商品をお客様に提供して行ける体制を作る。それが本社の方針だ。」


「我々のデザインじゃ、ダメだということか!」


興奮した声が飛ぶが


「本社はJFCとの取引を打ち切るとは言ってない。本社とJFCの関係から言っても、それはあり得ない。みなさんが良いデザインを作ってくれれば、今まで通り、それが採用されることになる。だから、みなさんは引き続き、業務に邁進して欲しい。」


そう言うと、所長は副所長を引き連れ、とっとと、退室して行く。


「あれじゃ、完全に本社サイドに立った物言いじゃない。」


「所詮、本社との兼務役職者だからな。」


みんなが口々に不満を述べる中


「平賀さん!」


私は平賀さんに呼び掛けた。その声に、みんなの視線が、苦渋に満ちた表情で立っている平賀さんに注がれる。


「聞いての通りだ。既に本社のバイヤー達には、新たな取引先を開拓するように指示が出てる。俺達のやるべきことは、これから現れるライバル達に勝つデザインを作り続けることだ。」


「おかしいじゃない。ウチの会社が独立することになった時、名目上は別会社になるけど、実質は今までと変わらないって、話だったはずよ。」


その岡嶋さんの言葉に、何人かの先輩達がそうだ、との声を上げる。


「あの時とは、本社の経営陣が変わっている。今の経営陣は、このところの売上不振の原因を、デザインだと見てる。ぬるま湯に浸かったJFCのデザイナー達じゃダメだと、俺にハッキリ面と向かって言って来た役員もいる。」


「なんだって」「ふざけんな」、そんな怒号が飛ぶ中、平賀さんは話し続ける。


「この話は、今に始まった話じゃない。1年以上前から、本社サイドから出ていたのを、所長達が懸命に抑えてくれていたんだ。だが、今季の春夏物の不振で、もう限界になった。」

そのあとも、先輩達からは、不平不満が噴出。更には会社に先行きに不安を抱く声も上がった。そんな彼らをなだめ、鼓舞し、本社との折衝がうまくいかなかったことに頭を下げ、平賀さんがようやくみんなを業務につかせるには、それからかなりの時間を要した。


(平賀さん・・・。)


さすがに平賀さんが気の毒だった。
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