愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
それから、私達は日々の業務に勤しんだ。そうするしかなかった。動揺は収まったわけではないけど、いつまでも右往左往しているわけにはいかないから。


そんなある日、勤務を終えて、退社しようとしていると、平賀さんに呼ばれた。


「失礼します。お呼びでしょうか?」


「ああ、帰り間際にスマンな。」


平賀さんからは、来月から展開される冬物の重衣料の販売応援スケジュールを早めに組むように指示を受けた。


「並木とも相談して、出来たら報告をくれ。」


「わかりました。」


「じゃ、そういうことでお疲れさん。」


話が終わり、私にそう言うと、平賀さんは持っていた書類に目を落とした。だけど、私が一向に出て行く様子がないことに気づいて、顔を上げた。


「どうした。何か、話があるのか?」


平賀さんにそう問われた次の瞬間、私は


「平賀さん、本当にすみませんでした!」


と言って、深々と頭を下げた。


「岩武・・・。」


突然の私の行動に驚く平賀さんに


「私、なんにも知らなかったのに、ずっと平賀さんに酷い態度とってて・・・。本当に申し訳ありませんでした。」


頭を下げたまま、私は言う。すると平賀さんは、椅子から立ち上がり、私に近付いて来る。


「丸山のことか。」


「会社のことも、平賀さんがどんなに頑張って、苦しんで来られたか。私、考えた事もありませんでした。」


「いつまで最敬礼してるんだ。いい加減頭、上げろよ。」


そんな優しい口調の言葉が降って来て、私はようやく頭を上げ、平賀さんを見た。


「どうしたんだ、急に?」


「井上さんが、この間、いろいろ教えて下さいました。」


「そうか、玲さんがな。」


(玲さん?)


その呼び方に、私は違和感を持つ。すると、平賀さんもそれに気付いたようで


「馴れ馴れしかったか?つい癖が出ちゃったな。」


と苦笑い。


「癖?」


「うん、仕事中は気をつけてたんだが。普段は、そう呼んでるから。彼女のこと。」


あれ、やっぱり付き合ってたの?2人は・・・。


「ただし、別に付き合ってるわけじゃないぞ。彼女と付き合ってるのは、俺の弟だ。」


「えっ?」


「大学のサークルで一緒だったそうだ。その時は、別になにもなかったようだが、卒業してから、しばらくして弟が偶然、玲さんのショップに立ち寄ったのがきっかけらしい。世の中、広いようで狭いと言う話だ。」


そう言って、平賀さんは笑った。
< 205 / 330 >

この作品をシェア

pagetop