愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「先日、来季に向けて、我々フロントと野崎監督で話し合いを持った。その際、監督からいくつかの要望があったんだが、その中に、『塚原は、キャッチャー出身の自分の目から見ても、いいキャッチャーになれる素質を持っている。手元に置いて、育ててみたい気もするが、しかし現状は醍醐という、リーグを代表するキャッチャーを差し置いて、彼を使うわけにはいかない。来季、Eが優勝を目指すに当たって、ピッチャー、特に先発ピッチャーのコマが不足してるのは、代表もおわかりと思う。ピッチャーとしての彼は、そのコマ不足を解消してくれる一員になり得る力を持っている。球団の方針も、本人の未練もあるかもしれんが、是非彼に、来季はピッチャー専任で頑張るよう、球団から伝えて欲しい。』というのがあった。」


その代表の言葉に、俺は思わず息を呑む。


「やはり名将と言われる人は、ちゃんと見ておられるんだと感心したよ。」


「代表・・・。」


「君の意思と、監督の要望が合致したなら、球団側としては、なんらの異議はない。頑張ってくれよ。」


「はい、ありがとうございます。」


俺は深々と頭を下げる。まさか、こんなに簡単に、俺の希望が容れられるとは、正直思ってもいなかった。


(監督がピッチャーとしての俺を、そこまで買っていてくれたなんて・・・。)


自分の決心は間違っていなかった。俺は意気込んで、記者会見に臨み、ピッチャーに専念することが決まったことを記者団に告げた。そして、そのニュースは、それなりの大きさで、配信されたみたいだった。


会見を終え、ユニフォームに着替えて、グラウンドに降りた俺は、真っ先に小谷さんのもとに向かった。


「おぅ、聞いたぞ。よく決心したな。」


小谷さんは嬉しそうに言った。


「さぁ、今日からはもう余計なことは、せんでいい。投げて、投げて、投げまくれ。野崎のオッサンが、お前を先発として使いたいと言うのなら、とにかく投げまくって、ピッチャーとしてのスタミナを作れ。いいな。」


「はい。」


頷いた俺は、勇躍ブルペンに向かった。無論ピッチャーとして。


小谷コーチの一軍昇格が正式に発表されたのは、その翌日のことだった。


「聡志、俺はお前に教えることはもう何もない。後は一人でやって、這い上がって来い。俺は向こうで待ってるぞ。」


そう言い残して、小谷さんは二軍のグラウンドを去って行った。
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