愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
そして、とうとうこの日がやって来た。


3月も半ばとなり、プロ野球開幕まで、あと2週間を切った日曜日。私は加奈と、東京ドームに来ていた。


前日の夜、あの浅草に行った高校時代のクラスメイト6人でやっているグループLINEに聡志が、こんな投稿をした。


『どうも。明日、東京ドームで投げます。先発ピッチャー次第の部分はあるけど、6回から2イニングの予定です。ひょっとしたら、松本先輩との初対決もありか?!でも打たせるつもりはない。ここまで喰らいついてきた一軍の座、手放すつもりはないんで。明日は絶大なるご声援、よろしくお願いします!!』


そして、私にはもちろん別途、連絡をくれた。


『今、宿舎に入ったところだ。』


「お疲れ様、いよいよだね。」


『ああ。開幕までに投げられるチャンスは明日を含めて、多くてあと2回。明日が最後の可能性だってある。とにかくライバルが多くてな。』


「だから、明日は先発じゃなくて、リリーフなんだ?」


『ああ。川上が先発して、その後。』


「LINEにも書いてあったけど、松本先輩との対戦、あるよね?」


『可能性は十分。その時はお前、どっちを応援するんだ?』


「本気で言ってるの?怒るよ。」


『一応、確認してみただけだ。ごめん。』


「バカ。」


もちろん、本気のやり取りじゃない。こんなやり取りをしながら、緊張をほぐしているんだ、お互いに。


そのあと、いろいろ話したあと、聡志は


『とにかく明日は、お前が見に来てること、バリバリに意識して投げる。絶対にいいとこ見せてやるから、楽しみにしてろ。』


なんて言って、電話を切った。


「お客さん、入ってるね。」


「うん・・・。」


来る途中から、加奈はいろいろ話し掛けてくれるんだけど、相槌を打つのが精一杯の私。普段は私がおしゃべりして、加奈が聞き役というパターンが多いんだけど、今日は立場が逆転。正直、自分のことのように・・・ううん、自分のこと以上に緊張している。


そして試合が始まった。聡志の出番は、まだ先なのに、緊張感はますます高まるばかり。ついに


「ごめん。」


と横の加奈に口走っていた。


「えっ、何?」


当然驚く加奈に


「今日、加奈とほとんど喋ってない。これじゃ一緒に見てる意味ないよね。」


と謝る。


「そんなことないよ。」


と答えてくれた加奈の笑顔は、優しかった。
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