愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
私には一つの決心がある。JFCを退職し、仙台に、聡志のもとに行く。そして聡志を支えるんだって。


あの5歳の時の幼い、でもとっても大切な約束をいよいよ果たす時が来たんだ。


本当なら、その決心は、既に実行されているはずだった。しかし、窮地に立たされている会社を、平賀さんを見捨てることが出来ないまま、自分の決心を会社にも親にも話せないでいる。


プロ野球が開幕し、4月もあっと言う間に過ぎて行く。


現実問題として、6月の秋冬物の展示会までは、このまま行くしかない。先に退職した同僚達から、引き継ぎを受けている立場とすれば、彼らの残した商品の案内はやる責任があるから。


だけど、それが区切りになるわけではない。業務に終わりはない。会社に在籍している以上、そして退職の意思を表明してない以上、その流れから逃れることは出来ない。


本当はもう携わるつもりがなかった来季の春夏物のデザインにも、着手せざるを得なくなっていた。本来のヤンカジュだけでなく、ミドルやティーンのデザインにも関わっている。


人員が増える見込みも、もちろんない。私の仕事を誰が引き継げるの?希?岡嶋さん・・・?


このままなら、終わりの見えないベルトコンベアーに乗ったまま、会社の光明が見えるまで奮闘するか、倒れるのを見届けるか・・・。


聡志の様子がおかしいのもわかっている。自信のあった開幕一軍を逃し、折れそうになった心を懸命に励まし、日々の練習に励んでいるはずの聡志。


事情があるにしても、約束を破り、そんな彼を側で支えることも励ますこともせず、遠く離れたままの私に不安や不満、苛立ちを感じていても、ちっとも不思議じゃない。


それに正直に言えば、長谷川さんの存在は、やっぱり私の頭の中から、離れることはない。


二軍戦に登板している聡志は、当初はショックを引きずっていたのか、打たれるケースが続いたけど、最近は落ち着きを取り戻している。


LINEが滞ることはない。電話も掛けるし、掛かって来る。連絡はちゃんと取れている。


でも最近、聡志が


『俺のことは心配するな。腐っても投げやりにもなってない。だから、お前も今、お前がやるべきことを全力でやってくれ。』


と事ある毎に繰り返すのが、気になっていた。


それは本当は、逆の意味なんじゃないかって・・・。
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