愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
GWが明けて、出勤すると、平賀さんに呼ばれた。


「なんでしょうか?」


連休前に移転したオフィス。本社ビルを退去する時は、なんとも切なく、悔しい気持ちにさせられた。


そして、そこから徒歩15分程の距離にある雑居ビルの一室に構えられた新オフィスは、手狭な上に、まだ雑然としていた。


転居前は、会社の事実上の責任者として一室を持っていた平賀さんだが、今はそんな余裕などなく、従って、私はオフィス奥の平賀さんのデスクの前に立った。話は、みんなに筒抜けだ。


「これを見てくれないか。」


と差し出された書類。手に取ると


『創立100周年記念 制服改定プロジェクト』


の文字が目に入る。


「平賀さん、これは・・・?」


「大手スーパーのYが、来年創立百周年を迎えるのを記念して、従業員の制服を一新することになった。」


Yと言えば、全国に200近い店舗を展開する日本を代表するスーパー。私の地元にも、お店があって、子供の頃から慣れ親しんで来た。


「現在、その新制服のデザインが検討されているんだが、そのデザイン作成をウチが担当することになった。」


「えっ?」


私は驚く。いや私だけでなく、当然その言葉が聞こえて、みんなが驚く。そのみんなの反応を見て、平賀さんはニヤリと笑うと


「と、言いたいところだが、そのデザインの候補を作成させてもらえることになった。」


言葉を改めた。な〜んだ、という空気が流れる中


「でも、そんな大手スーパーの制服のデザインなんて、よくウチみたいな小さな所に・・・。」


と私が問い掛けると


「Yの制服改定の話は、少し前に耳に入っていた。大学時代の友人がYの本社に勤めているのを思い出して、探りを入れてみたら、なんとそいつがプロジェクトの一員で、それでなんとか食い込ませてもらったんだ。」


平賀さんが答える。


「凄いじゃないですか。」


驚く私に


「別に凄くない。向こうとしては、候補が増える分には困らないということだ。」


平賀さんは冷静に答える。


「わかってるとは思うが、この仕事は成功報酬だ。採用されればいいが、ダメなら、何も報われない。」


「・・・。」


「だがYの従業員は約3万、洗い替えを考えれば、6万の服が一度に売れることになる。大ヒット商品だろう。」


「はい。」


「それだけじゃない。制服は貸与だから、退職者からは回収するが、それだって使えなくなる物は出てくる。それに新規採用者もいるから、足りなくなる。それが例え、何十枚の単位でも発注されれば、その度にデザインフィーが入って来る。今の制服が、20年使われてるように、一度採用されれば、そう簡単には、差し替えられることはないだろう。今はどこも経費節減、リストラ。制服という文化が日本企業から消えようとしている時代に、こんな大掛かりな制服改定なんてありがたい話が、そうそう転がってるもんじゃない。」


いつの間にか、みんなに話している形になっていた平賀さんは、ここで改めて私を見た。
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