愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
翌日、朝食を済ませた私達は、身支度を整えるとロビーへ降りて行く。


この時期はホテルからEが練習しているグラウンドまでの送迎バスが出ている。マイクロバスだが、出発する頃にはいっぱいになってる。


球場に着くと、球団関係者が待っていてくれて


「塚原選手のご家族のみなさんですね?お待ちしておりました。」


と丁重にお出迎えを受けて、ビックリ&恐縮。家族証を渡され、関係者の案内でグラウンドに向かう。


グラウンドでは、既にウォーミングアップのランニングが始まっていた。


「あっ、塚原くん。」


という加奈の声に、目を向けると、大きな掛け声を出して、先頭を走る聡志の姿が目に入る。


「ああいうのは、やっぱり新人の役割なのね。」


と塚原のおばさん。


「今、一軍のキャンプには、新人選手は2人しかいませんから、その2人が日替わりにあの役をやるんですけど、塚原くんの方が元気があって、あとの練習にも活気が出るんですよ。」


案内の職員さんの言葉に、そんなことでも聡志が褒められたことが嬉しくなる。


そして私達は、案内されてEの前田浩郎監督のもとにご挨拶に。練習を見守っていた監督は、私達に気づくと


「いやぁ、遠路はるばるお疲れさまです。初めまして、E監督の前田です。」


と満面の笑みで迎えてくれた。


「塚原です。この度は、息子がお世話をお掛けいたしております。」


「いえいえ。塚原くんはいいモノをもってます。私も期待しております。」


「そうですか、ありがとうございます。どうかよろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げるおばさんに、礼を返すと、監督は今度は私と加奈に視線を向けた。


「それで、お母さんはわかるとしても、妙齢の女性が2人というのは・・・どちらかは妹さん?」


「いえ、塚原くんの彼女はこの子で、私はEファンなんで、便乗して連れて来てもらいました。」


監督の戸惑ったような問いに、調子よく答える加奈。私や悠と違って、プロ野球にそんなに興味ないくせに。


「そうか、君が塚原の大事な幼なじみの彼女さんか。」


えっ、なんで監督さんがそんなこと知ってるの?


「まぁ男所帯だから、その手の話は、先輩に絞られて、すぐに筒抜けだから。別にツカが特別おしゃべりなわけじゃないよ。」


と言って笑う前田監督。


「慣れない環境に飛び込んで、ツカもだいぶ疲れが溜まってる。あとで励ましてやってくれ。」


「はい。」


「じゃ、今日はゆっくりと、練習を見て行って下さい。」


そう言って、帽子をとって私達に挨拶すると、監督は離れて行った。


40代前半と、プロ野球の監督としては若い前田さんは、私達にも気さくに接してくれた。そしてこの人が聡志を獲得するように、推薦してくれたということも聞いていたから、私は監督さんに好感を持った。
< 26 / 330 >

この作品をシェア

pagetop