愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
いよいよあと1日。もちろん今のデザインのままでも、納品は出来る。タイムアップになってしまえば、そうするしかない。


でも、最後までベストを尽くしたかった。結果はどうあれ、悔いが残ることだけはしたくなかった。


家に戻り、私は両親に話があると切り出した。


「明日は戻れないかもしれない。」


「どうしたんだ?」


「明後日の朝一までに仕上げなきゃならないデザインがあるの。ほぼ完成してるんだけど、もうひと工夫したいんだ。だから・・・場合によっては徹夜になるかもしれないから。」


「会社に泊まるかもなんて、初めてね。そんなに大変なの?」


「うん。とにかくベストを尽くしたいんだ。それで、お父さん、お母さん。」


ここで、私は容を改めた。


「急にこんなこと言い出して、ビックリすると思うけど、私、この仕事で、デザイナーとしての自分に、区切りを付ける。」


「えっ?」


「会社を辞めて・・・仙台に行きたいと思います。」


突然の私の言葉に、当然両親は驚く。そこで、私は昨年の秋からの経緯を両親に話した。


「こんな大事なことを今まで黙ってて、ごめんなさい。なかなか切っ掛けとタイミングがなくて。でも私なりに考えた末の結論です。どうかお許し下さい。」


そう言って、頭を下げる私に


「分かった、と言いたいところだが、そうはいかんな。」


とお父さんの厳しい声。


「お前と聡志のことは、かねて私達も望んでいたことであることは確かだ。ただ実際問題として、お前達は正式に婚約してるわけじゃないし、聡志からキチンと挨拶もしてもらっていない。親しき仲にも礼儀あり。なんと言っても、私達にしてみれば、ここまで手塩にかけて育てた、大切な一人娘を手放すんだ。そんないい加減な形でバタバタと事が進んで行くことは、当然容認出来ない。」


「それはわかってます。私もすぐにすぐ、会社を辞められるわけじゃないし、聡志もシーズン中で、簡単には時間も作れない。でもそれは、彼と相談して、キチンとします。」


お父さんの言い分はもっとも。塚原のおじさん、おばさんにも、まだ何も言ってないんだし。そのことは、明日が終わったら、聡志と相談しなきゃいけないことなのは、間違いない。


「わかった。じゃ、それを待とう。私達の返事はそれからだ。」


「はい。」


言葉は厳しかったけど、両親が内心は喜んでくれてることは伝わって来て、私はホッとした。


夕飯が済んだ後、聡志にLINEを送った。


『お疲れ様。明日はローテーション通りなら、先発だよね。応援してるから頑張ってね。こちらも明日で、一段落します。そしたら、ゆっくりといろんな話をしたいな。』


返信はすぐに来た。


『お疲れ。一応チームの機密事項なんで、ハッキリとは答えられんが、まぁがんばるよ。そうか、ここんところ、大変そうだったもんな。取り敢えず、最後まで気を抜かないように、しっかりな。うん、由夏の声聞けるの、楽しみにしてるからな。じゃ、明日はお互い早いし、ここらへんで。おやすみ。』


「ゆっくりといろんな」に込めた意味は、ちょっと伝わらなかったみたい。まぁ仕方ないか。どちらにしてもLINEでバタバタする話じゃないし。


とにかく、今はデザインのことだけを考えなきゃ。
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