愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
この日の力を全て使い果たした俺は、あとをリリーフピッチャーに託し、ベンチで彼らに懸命に声援を送った。


それはとてつもなく長く、苦しい時間だった。自分で投げてた方が、どんなに楽だったろうと、何度考えたことか。


しかし、彼らは懸命に投げ、そしてバックも懸命に守った。チームの勝利の為、そして俺の初勝利の為に。


だがGだって、当然簡単には引き下がらない。死力を尽くした戦いが続くこと、それから約1時間半。最後のバッターの放った力ないフライを菅沼さんがガッチリ掴んで、ついにゲームセット。


「やった!」


思わずそう叫んだ俺に、次々と握手の手が伸びてくる。俺はそれを夢中で握り返した。


引き上げてくるナインを出迎える。口々におめでとうと祝福され、それにありがとうございますと答えて、頭を下げる。ウィニングボールを掴んだ菅沼さんが


「やったな。彼女にプレゼントしてやれ。」


と言って、手渡してくれたボールを、俺は宝物でも受け取るかのように、おしいただく。いや、俺にとっては、どんな大金にも変えられない大切な宝物だ。


そして、凄まじいフラッシュを浴びて、上がったお立ち台。やっぱり興奮していて、ほとんど何を話したか、覚えていないが


「この喜びをまず、どなたに伝えたいですか?」


と問われ


「ずっと僕を応援してくれてる両親、そしていつも、どこにいても、僕を見守ってくれてる大切な人に、心からありがとうとやったぞと言いたいです!」


と答えたのだけは、覚えている。


インタビューが終わり、ベンチに戻った俺を出迎えてくれたのは、小谷コーチだった。


「コーチ。」


「聡志、ようやった。諦めずに・・・ようやったな。」


そう言って、俺の手を握った小谷さんの目に涙が浮かんでるのを見て、俺も感極まる。


「いえ、コーチも、こんな出来の悪い奴を見限ることなく、辛抱強く面倒見て頂いて、ありがとうございました。」


「全くな。」


そう言って笑った後


「だがな、お前には不思議な魅力がある。人を惹き付ける、見離すことが出来ない、助けてやりたい、そう思わせるな。私も監督も、前田くんも・・・そして、多分お前の彼女もな、それにやられたんだ。」


「小谷さん・・・。」


そんなことを言われて、俺は照れ臭くなる。


「これで、やっと彼女を胸張って、迎えに行けるな。」


「はい。」


「だが、わかってるだろうが、今日はゴールじゃない。本当のスタートだ。彼女と二人三脚で、しっかりやって行け。先は、まだまだ長いぞ。」


「わかりました。」


小谷さんの言葉が、心に沁みた。
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