愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
その日の練習が終わり、着替えた俺は、球場を出ると、そのまま歩き出した。実はこれから2人の珍客と待ち合わせているのだ。


「珍客」は少し大袈裟かもしれないが、会うのが久しぶりなのは確かだった。待ち合わせた個室のある居酒屋に出向くと


「既にお連れ様は、お待ちです。」


とのことで、入ってみると


「おぅ、来たな大投手。」


と冷やかしの声。


「大投手と待ち合わせるのに居酒屋かい。高級クラブとか用意しろよ。」


とまぜっかえすと


「この店、教えてくれたのは、お前だろ。」


「それは貧乏人のお前たちに合わせてやったんだ。」


こんな軽口を叩き合える間柄の奴らは、なかなかいるもんじゃない。待っていた2人は沖田総一郎と神尚人。俺にとっちゃ、かけがえのない大切な高校野球部の仲間、いや盟友だな。


沖田から連絡が来たのが、2週間ほど前のことだった。高校時代の仲間達が、今年の俺の活躍を祝うために集まろうと、張り切ってる。お前、いつ頃、こっちに帰って来るんだとの問い合わせだった。


俺にかこつけて、ただ集まって騒ぎたいだけなのは、見え見えだが、それでも嬉しくないわけじゃない。ただ俺には、それには応えられない事情があった。


「すまんな。このオフも帰らねぇんだ。」


『えっ?本当かよ。お前去年も帰って来てないよな?去年はまだ事情はわかるけど、今年はどうしたんだよ。しばらく集まってないから、みんな楽しみにしてるんだぞ。』


確かに、去年のオフは練習に集中するために帰らなかった。でも今年は帰るに帰れない深~い事情があるんだ、これが・・・。


「まぁ、いろいろあってな。一軍で活躍すると、お陰様でオフもなんだかんだと忙しいんだ。だから、みんなによろしく伝えてくれよ。」


と言って、適当に電話を切った。


すると、数日後また電話が掛かってきて


『お前が帰って来られないなら、こっちから出向くって。』


「えっ?」


俺が思わず聞き返すと


「取り敢えず、代表してキャプテンがそっちに行くことになって、俺もお供で行くから。来週土曜日の夜、空けとけって。じゃ、よろしくな。」


とほぼ一方的に通告されて、話が決まった。


そして、サラリーマンの奴らも休み、俺も翌日は練習が休みという今日に、3人だけの同期会が始まった。


「わざわざ遠い所に、済まなかったな。みんな元気にしてるか?」


「ああ。相変わらずだ。みんなお前の活躍を喜んでる。自分のことのようにな。」


「今日も本当は、もっと参加希望者が多かったんだが、いざ仙台まで遠征となるとなかなかな。正月明けのOB会は来られるんだろ?」


「ああ。それはなんとしても行くよ。」


「じゃ、正式な同期会はその時だな。」


そんなことを話しながら、会は和やかに始まった。
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