愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「でも、あの人、仙台に行ったの確か、去年の7月のはずだから、まだ1年ちょっとじゃない。」


ようやく、そう言った私に


『私もそう聞いた記憶があったから、さっき同僚にくっついて、様子見に行ったんだよ。そしたらさ、やっぱり。彼女とは高校卒業以来、会ってなかったけど、絶対に見間違いじゃないよ。』


そっか、そうだったんだ。でもだからって・・・私が反応に困っていると


『由夏、チャンスじゃない!』


と勢い込んだ加奈の声。


「えっ?」


『えっ、じゃないよ。奪い返すチャンス到来って、言ってるの!』


「加奈・・・。」


一瞬戸惑った私は、次に、


「でも、別れたとは限らないし、遠恋になっただけかもしれないし・・・。」


と答えると


『その遠恋中に、あの子に塚原くん奪われたのは、どこの誰なのよ。』


と呆れた声を出す加奈。


『やられたら、やり返す。目には目を、歯には歯をって言うじゃない。』


「加奈らしくない、過激なこと言うね。でも、所詮聡志の気持ちがもう私には・・・。」


『あぁ、じれったいな!』


加奈の声が、ますます大きくなる。


『なんなの、由夏。私と総一郎のことは、あんなにズケズケ、いろんなこと言ってきたのに、いざ自分のことになったら、なんで、そんなに煮えきらないの?』


「それは・・・。」


私が返事に困っていると


『由夏が本当に塚原くんのこと、諦められたんなら、何にも言わないよ。忘れられるって言うから、それでいいよ。でも、全然そんなんじゃないじゃない。だったら戦うべきだよ。そんなウジウジした由夏は、私の知ってる由夏じゃない!』


まさに正論。私は何も言えずに携帯を握りしめていた。


仕事が終わり、帰宅した私は、もう1人の親友の声が聞きたくなって、電話してみた。だけど、応答はなく、留守電になってしまった。忙しいのだろうと思っていると、11時過ぎになって、折り返しが来た。


『ごめんね、こんな時間に。子供寝かしつけてたら、一緒に寝ちゃってさ。着信、今気付いたんだ。』


「ううん、私は全然大丈夫。それより私の方こそ、ごめんね。悠が疲れてるのに。」


『大丈夫。どっちにしても、パパがもうすぐ帰って来るから、起きなきゃいけない時間だったから。』


悠はなにげなく言うけど、新聞記者の旦那さんは夜が遅い仕事で、出張も多い。子供はまだ小さいから、ずっと手が掛かる。きっと息つく暇がないほど、忙しいに違いない。私はつい心配になってしまうけど


『ありがとう。でも舞が近くの幼稚園の預かり保育に通うようになって、だいぶ楽になったし、パパの帰りも毎日待ってるわけじゃないんだ。遠征の時なんか、結構羽伸ばしてるよ。だから、周りの人が思ってくれてるほど、主婦もママも真面目にやってるわけじゃないから。』


そう言って、笑うこの子は、本当に私と同い年なのかと思ってしまう。真面目で、ひたむきで、周りに弱音なんか、絶対漏らさない子だから、それだけに心配。白鳥先輩、悠をちゃんと労わってあげてね。
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