愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「すいません。伺おうとは思ってたんですが、なかなかタイミングが合わなくて・・・。」


仕方なく、当たり障りのない言い訳をすると


『そう。ならいいけど、一軍で活躍するようになると、もうウチみたいなちっぽけな店になんか、用がないのかと思ったわ。』


あちゃ〜、これはまた、手厳しい嫌味を言われてしまった。でも、これも身から出たサビ、仕方ねぇよな・・・。


「本当にすみませんでした。もうすぐオフになりますから、そしたら必ず伺います。」


『そう。じゃ、早速明日の午後なんかどう?次の日はお休みだって、聞いたから、少し早めに練習切り上げて、いらっしゃいよ。』


ヘッ?そりゃダメだ。とにかくタイミングが悪すぎる。


「すみません。今度の休みで、1回神奈川に帰るんで。出来たら、明日のうちに帰りたいと思って・・・。」


『そうなの?でも午前中で練習切り上げて、その後、ちょっと寄ってってくれれば、夕方にはこっち、出られるでしょ?ちょうどいいお魚が手に入ったから、塚原くんに食べさせたいって、主人も張り切ってるから。ウチのランチタイムが終わる、2時に来てくれれば用意しとくわよ。』


う〜ん、でもここまで言っていただいて断るのも失礼だよな。確かにその足で、駅に向かえば、夕方の新幹線には間に合うだろうし・・・。


「わかりました。では、よろしくお願いします。」


『よかった。じゃ、明日待ってるからね。』


奥さんは嬉しそうにそう言うと、電話を切った。その声を聞いて、俺は本当に申し訳ないことをしちゃったなと、つくづく思った。


そして翌日。練習を午前中に切り上げて、堀岡亭にほぼ約束の時間に着くと、店の中には、既に他のお客はいなかった。


「どうもすみません、すっかりご無沙汰しちゃって。」


そう言って、頭を下げる俺に


「いらっしゃい。Eの若きエースにご来店いただいて、こちらも光栄ですわ。さぁ、どうぞ。」


エースなんて、おだてられても困ってしまうが、でも奥さんが歓迎してくれてるのはわかり、なんかホッとする。


「1年間、お疲れ様。凄い活躍だったわね。」


「ありがとうございます。なんか、無我夢中の間に、1年が終わった気がします。」


そんな会話を交わしていると、マスターが


「よう、久しぶり。よく来たね。」


といつもの気さくな雰囲気で料理を運んで来る。


「あっ、今日はすみません。」


「ああ。これ、鰆のソテー。魚へんに春と書くくらいだから、春の魚と思われてるけど、どっこい関東以北で採れるのは、冬が旬なんだ。さっき、別のお客さんにも出したら、好評だったから、食べてみてよ。」


と笑顔で、俺の前に皿を置いた。


「ありがとうございます。では、いただきます。」


と言って、一口、口に運ぶと、白身なのに、脂の乗ったジューシーな味が、口いっぱいに広がる。


「美味い・・・です、これ。」


思わず笑顔で、そう言うと


「やっぱり、同じ顔して、喜んでくれるね。」


と奥さん。


「えっ?」


「ううん、なんでもない。お水、もってくるね。」


慌てたように、テーブルを離れて行った。
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