愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
待ちわびた携帯の着信があったのは、私が街をぶらつき始めてから、2時間近く経った頃だった。


「もしもし、お疲れ。」


思わず声を弾ませる私の耳に


『おぅ、由夏も遠いところ、お疲れさん。』


聡志の嬉しそうな声が届く。


『何してるんだ?』


「街の散策。ねぇ何時頃、こっちに来られる?」


勢い込んで聞く私に


『一回合宿所戻って、シャワ-浴びて着替えてからだから、小一時間は掛かるぞ。』


と聡志。


「わかった。じゃぁなるべく早くね。待ち合わせは、私の泊まってるホテルのロビ-でいいんだよね?


『ああ、じゃ後で。』


電話が切れる。Eの合宿所は二軍練習場のすぐ近くで、ここから電車で30分程。一刻も早く会うには、私がそっちに行った方がいいんだけど、合宿所の近くには食事したりする場所があまりないそうで、結局市内に戻ることになるからということだった。


それでホテルに戻り、首を長くして待っていると、やがて帽子を目深に被り、サングラスを掛けた怪しげな男が。


「お待たせ。」


もちろんひと目で聡志だってわかったけど


「聡志、何その恰好?」


と私が思わず笑いながら聞くと


「シッ!さ、ぐずぐずしてないで行くぞ。」


となぜか小声で言う聡志。私がきょとんとしていると、慌てたように手を引いて、外に連れ出す。


「ちょっ、ちょっと、どうしたのよ?」


「うるさい。騒ぎになりたくなかったら、黙って付いて来い。」


戸惑う私にお構いなしに、手を引いたままズンズン歩いて行く聡志。


「ねぇ、聡志ってば!」


たまりかねて、私が少し大きな声を出すと、その声に周りの人たちが私達を振り返る。


「バ、バカ。」


と言った聡志の声は、周囲の人からの


「あ、Eの塚原だ。」


「キャ~、塚原くん~!」


という声でかき消された。


「行くぞ!」


そう言って、周囲に一礼した聡志は、私の手を引いて、走り出した。


「誰、あの子?彼女?」


そんな声が後ろから上がるのを聞きながら、私は訳が分からないまま、聡志に手を引かれて行った。
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