愛を贈りたいから〜これからもずっと〜

しばらく走って、ようやく人の少ない細い通りに入って、私達は足を止めた。


「ちょっ、ちょっと・・・どういうことよ。」


息も絶え絶えにそう聞いた私に


「どういうことって・・・こういうことだよ・・・。」


普段から運動に縁のない私だけでなく、さすがに聡志も息を弾ませている。私達は息を整える為に、しばらくその場に立っていたが


「で、ここだから。」


という聡志の声に、ふと見ると、小さな洋食屋さんの前に居た。


「入るぞ。」


再び私の手を引いて、聡志はお店の中に入って行く。


「いらっしゃいませ。」


すると40代半ばとお見受けする優しそうな女性が、笑顔で出迎えてくれる。


「お邪魔します。」


「その様子じゃ、また騒ぎ？」


「ええ、まぁ・・・。」


女性に言われて、照れ臭そうに答える聡志。


「奥の席、用意出来てるから、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


そう言って店の奥に入って行く聡志に、私も一礼して付いて行く。と言っても、そんな広いお店じゃない。すぐ正面の席に、フォ－クとナイフ、それにグラスが2人分セットされている。私は聡志に促されて席に着く。


「ビックリしたでしょ？」


私達が席に着いたのを見届けて、グラスに水を注いでくれる女性。


「ええ。」


「塚原選手は仙台のス－パ－スタ－だからね。」


「えっ？」


「止めてくださいよ。」


女性の言葉に私は驚き、聡志は慌てる。


「始めていいかしら？」


「お願いします。」


そんな聡志にそう声を掛けると、その人は厨房に下がって行く。


「ここはEの特に若手選手御用達の洋食レストランなんだ。この店はお世辞にも広くもオシャレでもなく、『ビストロＨＯＲＩ』というれっきとした名前がありながら、なぜか選手達からは『堀岡(ほりおか)亭』と呼ばれ、でも最高のシェフと奥さんが、最高にうまい料理を、リ－ズナブルに出してくれる。楽しみにしててもらっていいぜ。」


その後ろ姿を見送りながら、聡志は笑顔でそう言った。