愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
今年の母校は、県大会を突破することが出来なかった。


「負けちまったなぁ。」


この日の試合前、俺にそう声を掛けてきたのは、今日の対戦相手Fの一員の佐藤博(さとうひろし)さん。高校時代の1年先輩、つまりは松本さんや白鳥さんの同期生。闘将と呼ばれ、俺達がちょっと気の抜けたプレ-をすると


「バカ野郎、気合を入れろ!」


ポジションのライトから大声で活を入れられたものだ。高卒でプロ入りを目指していたけど、果たせず、3年間の社会人野球生活を経て、プロ3年目。一軍経験もあるが、まだ定着するまでには至らず、今は二軍にいる。


「そうですね。最近は甲子園が遠いですよね。」


俺がそう返すと


「ああ、歯がゆいよな。」


と佐藤さん。俺が卒業した次の年に夏の大会に出たのを最後に、もう4年間、甲子園から遠ざかっていることになる。だが、ウチの高校はもともと県大会でよくてベスト4止まりの万年善戦校だった。それを一躍甲子園の王者に押し上げたのは、間違いなく佐藤さんの世代。とにかく夏3回、春2回の甲子園出場機会5回を全てモノにして、優勝4回ベスト8、1回なんていうとんでもない成績を収めた人から見れば、確かにそうだろうな。


「こりゃ、いつまで他球団の選手と喋って、油売っとるんだ。10年早いぞ!」


そこに小谷さんの厳しい声が飛んできて


「すいません!じゃ先輩、また。」


「おぅ。」


佐藤さんに挨拶すると、俺は慌ててベンチに戻った。


「佐藤博か・・・。」


すると小谷さんがポツンと呟くように言った。


「はい、高校の先輩なんです。」


と俺が答えると


「知っとる。でもアイツも伸び悩んでるな。」


と一言。


「えっ?」


「甲子園の時は、上(一軍)ですぐにでも、バリバリやれると思ってたが。」


「小谷さん・・・。」


その言葉に思わず、小谷さんを見ると


「おっと、他球団の選手のことを気にしてる暇はなかったな。おい、今日はキャッチャ-の方で出番があるかもしれんぞ。準備しとけ。」


「はい。」


そう指示して、小谷さんは俺から離れて行った。
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