愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
試合展開はともかく、俺にとっては貴重な出場機会だ。ピッチャーを上手くリードして、佐藤さんに限らず、相手の全打者を抑えて、アピールしたい。


この回、Fの攻撃は4番から。佐藤さんに打順が回って来る。


(さぁ、行くぜ。由夏!)


あいつが実際に、見ている見ていないに関わらず、試合中、事ある毎に心の中で由夏に語りかけるのは、高校時代からの俺のクセというかルーチン。そうやって、あいつと一緒に戦い、力をもらっている気分になるんだ。


キャッチャーボックスに座った俺は、マウンド上にピッチャーにサインを送った。


だかそれから数分後、俺達はマウンドに集合する羽目になった。相手の4,5番に連打を浴び、あっという間にピンチを迎えてしまったのだ。


「点差考えてみろ、何逃げ回ってるんだ。」


俺はそう言って、ピッチャ-に気合を入れる。ちなみにプロ野球の世界では、入団年次ではなく、年齢が上下関係の基準。だからル-キ-の俺でも、相手が年下ならこんな口がきける。


「わかりました。」


と青白い顔で頷いたピッチャ-の尻を、励ますようにミットでポンと叩くと、俺はキャッチャ-ボックスに戻った。


「おい、ツカ。」


するとバッタ-ボックスの横で準備していた佐藤さんから声が掛かる。


「はい。」


実は、野球のル-ルブックには、試合中は相手チ-ムの選手との会話は禁止と明記されている。でもそのル-ルが有名無実と化しているのは、テレビのプロ野球中継を1度でも見てもらえれば、わかってもらえるだろう。ましてや相手は俺にとっては、全く頭の上がらない高校時代の1年先輩。無視するなんてことは出来るはずない。


「久しぶりにお前のバッティング見たけど、相変わらずひでぇな。」


すると、そんなことを言って、ニヤリと笑う先輩。ピッチャ-とキャッチャ-を兼務出来る程の豊かな(?)才能に恵まれた俺だが、天はさすがに三物を与えてくれなかったらしく、ことバッティングに関しては、子供のころからからっきしだった。
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