愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
試合は、そのままEの大敗で終了。試合後のミ-ティングで、俺達が首脳陣からこってり油を搾られていると、相手側のベンチ前で佐藤さんが取材陣に囲まれているのが見える。一軍とは比べ物にはならないが、二軍にも記者が来て、主にそのチ-ムの地元のファンに向けて発信をしている。


「いつ迄も、こんなところにいるわけにはいかねぇからな。」


佐藤さんのさっきの言葉が蘇って来る。俺達の母校である明協高校は、かつて高校野球の世界で「王者」と称されるくらいの強さを誇った。その栄光を築き上げた中心に佐藤さん達、俺達より1つ上世代の先輩達がいた。


そしてその先輩達が、ケガで選手生命を絶たれた白鳥さん以外、全員プロの世界に身を投じた。松本省吾さんは、高校卒業してすぐにプロへ進み、今や若きGの4番打者。大学から昨年プロ入りした大宮康浩(おおみややすひろ)さんと久保創(くぼはじめ)さんも一軍で活躍している。


そんな中、やや出遅れた感の否めない佐藤さんが焦りを感じるのは仕方ないだろう。俺達二軍の選手が、一軍に呼ばれるためには、結果を出すしかない。その為に、佐藤さんは容赦なく、高校の後輩である俺のその単細胞的な性格を利用して見せた。こう言ってはなんだが、自分自身が熱血漢、ひいては単純と揶揄されることが少なくないあの人が・・・だ。


(由夏、俺はやっぱりまだまだだわ・・・。)


そんなことを考えていると


「おい、塚原。聞いているのか!」


と、またまた小谷コ-チの雷が。


「全く身近な先輩の得意不得意も頭に入ってないようじゃ、話にならんだろう。もっと勉強しろ!」


別に頭に入ってなかったわけじゃないけど、上手く騙されました・・・なんて言ったら、余計怒られるだけなので、俺は首をすくめているしかなかった。


結局、この試合の活躍が認められて、佐藤さんは間もなく一軍に昇格して行った。


『明日から一軍だ。もう二軍に逆戻りするつもりはねぇから、まぁ見ててくれ。ツカ、お前も早く一軍に上がって来い。今度は一軍で勝負だ!』


張り切った佐藤さんから入って来たメ-ルを、俺は複雑な思いで読んでいた。
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