愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
今日、球場入りしたら、いきなりスタメンを告げられて驚いたけど、由夏の前でスタメンで出られるなんて。まして、相手は大澤、願ってもないチャンスとしか言いようがない。


気合を入れるなと言われても無理な状況。


(さぁ、行くぜ!)


俺は勢いよく、ベンチを飛び出して、まずスタンドを見渡す。三塁側ベンチの上に由夏を見つけるに、ものの1分も掛からず、俺はあいつに向かって、ミットを少し上げて合図する。するとそんな俺に、愛しの彼女が微笑んで、応えてくれたのがハッキリ見てとれる。これで張り切らなきゃ男じゃないぜ!


さぁ、いよいよプレ-ボ-ル。先発マウンドに上がった橋上賢治(はしがみけんじ)は、高卒3年目の21歳。速いボ-ルを投げるんだが、気が弱いのがタマに傷で伸び悩んでいる。ピッチャ-としては、競争相手の伸び悩みは大歓迎なんだが、幸か不幸か今の俺はキャッチャ-。俺ならこうリ-ドするのにと、やきもきしながら見ていた。


(この手のピッチャ-は下手に考えさせずに、ガンガン放らせる。これに限る。)


高校時代、沖田総一郎という気の優しいピッチャーをリ-ドするのに苦労した経験は、伊達じゃないぜ。


俺は橋上が嫌がるのも構わずにドンドン内角にボールを投げさせた。この間、佐藤さんに内角を攻めて、痛い目に合ったばかりなのを忘れたのかと言われてしまうかもしれないが、ピッチャーというのは、やっぱり相手にボールをぶつけたくはないという本能があり、特に気の弱い奴は無難に外へ、つまりバッターから遠い所に投げたがる。


しかし相手もプロなんだから、そんなワンパターンの投球は通用しない。


身体に近いボールは甘いコースに入れば、打たれやすいというリスクがあるけど、それを恐れてては、勝利は掴めない。


(俺を信じて、ドンドン投げ込んで来い!)


俺はまた、内角にミットを構えた。
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