愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
聡志が2年目に向けて、好スタートを切ったのは嬉しい限り。


でも、私だってサボってばっかりいるわけじゃない。聡志に負けてられないもん。


暑い盛りの8月に立ち上がった秋物が最盛期を迎え、薄手のジャケットを中心とした軽アウター、更にはニットと寒さ対策の商品が続々と投入されるこの時期。


商品動向にアンテナを張りながら、冬物コートの最終チェック、更には12月に迫った春夏物展示会の打ち合わせと準備。


正直言って、目の回るような忙しさ・・・なのは、まぁ陽菜さん、ひいてはウチのデザイナーのトップでもある平賀さんなんだけど、私だって陽菜さんのアシスタントとして、走り回ってる。


特に来春の商品のデザインについては、私もほんの少しではあるけど、関わらせてもらってる。


そんなある日、私達新入社員3人は、平賀さんに呼ばれた。


「いいか?ウチはご存知の通り、少数精鋭だ。岩武にも来年の夏物に関しては、もう丸山と肩を並べるくらいの立場で仕事をしてもらわなきゃならん。わかってるな?」


「はい。」


「だから今は、とにかく貪欲に、いろんなことを吸収して行ってくれ。今はまだ1年生なんだから、こんなことを聞いたら笑われるなんて遠慮してたら、ただの時間の浪費だからな。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥っていうのは本当だ。年が明けたら、俺はお前をもう一人前のデザイナーとして扱う。お前を丸山のアシスタントに留めとくつもりはないからな。」


「わかっています。」


そう言って、私が頷いたのを見ると、平賀さんは、今度は別の二人に視線を向ける。


「岩武だけじゃない。野村は俺の営業マンとしての、ある程度の部分を担ってもらう。俺ももう少し、本業のデザイナーの方に力を入れさせてもらいたいしな。そして進藤に至っては、先輩の石川(いしかわ)の年内退社が決まってるんだから、そしたら事務担当の社員はお前1人になるんだからな。」


「はい。」


美優の先輩の石川梨花(りか)さんは、年内いっぱいでの寿退社が決まっている。というより、石川さんの退社の話があったから、美優の採用が決まったらしい。


「頼んだぜ、お三方。」


厳しい表情で、そう語った平賀さんは、最後にそう言って、ニヤッと笑った。


その表情のギャップに、私達はやられてしまう。
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