愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
新監督の御前で、好投を披露してからも、俺は順調にキャンプを過ごせた。実戦では、プロに入ってからは1度もなかった試合中のキャッチャ-からピッチャ-へのポジションチェンジも体験した。


そしてこのキャンプ中に、俺は初めての契約更改に臨んだ。プロ野球選手は基本的に1年契約で、いわば個人事業主として、球団と毎年契約を交わすことで、プロ野球選手としての地位と活動場所を確保していく。ただ、その契約のオファ-が出せるのは、あくまで球団側のみで、俺達選手は完全に受け身。


「君とは、来季の契約は結ばない。」


球団からのその通告を受けた瞬間、無職となる。今更ながら、シビアな世界だ。


やれ推定年俸何千万だ、億だとニュ-スになる主力選手達と違って、俺達クラスの選手は十把一絡。練習の合間に、流れ作業のように、次々に球団幹部の待つ部屋に呼び込まれて、その時に来季の年俸を提示される。


曲がりなりにも、即戦力を期待される大卒ながら、一軍どころか二軍ですらレギュラ-にも程遠く、同期の大澤や川上にも大きく水を開けられてしまった現状では、まぁこちらから四の五の言える立場でもなく、はいはいと契約書にサインするしかないのだが、それでも来季への期待料込みとかで、若干ながら年俸アップになったのは驚いた。


「球団としては、二刀流での活躍を、引き続き期待している。大変だろうが、頑張ってくれ。」


と新監督に続いて、球団幹部から言われたのは、当然悪い気はしなかった。


そして秋季キャンプが終わり、10月下旬に南国宮崎から、仙台に戻った時には、その気候の違いに思わず、身を縮めた。


一軍クラスの連中は、この辺でだんだん練習を切り上げ、オフに入っていくが、俺達若手は、この後も練習あるのみだ。
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