愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
結局、俺が本格的に身体を動かし始めたのは、年が明けて、三が日が過ぎてからだった。


そして、このオフ最後の行事として、高校野球部OB会があった。その前に、大学の方のOB会もあって、今や球界最大の勢力を誇ると言われるウチの大学のOB会らしく、そうそうたるメンバーが顔を揃え、俺は緊張した一時を過ごした。


その翌日に開かれた高校のOB会は、大学のそれとは規模、スケールは違うけど、このところ何人ものプロ選手を排出し、この日はその面々が勢揃いして、華やいだ雰囲気になった。


そこで、俺は松本先輩に久しぶりに会った。高校の1年先輩で、ウチの高校の黄金時代を白鳥先輩や佐藤先輩達と築き、高校卒業と同時にプロ入り。以来5年、まさに順風満帆、今や球界有数のバッターとなった先輩は、当然今日の主役だった。


「塚原、ちゃんと身体動かしてるか?」


挨拶に行って、開口一番言われたのが、それだった。


「ええ、年明けからボチボチ。」


ちょっとバツ悪げに答える俺。久々に会った先輩の目から見ても、俺の身体は明らかに太めだったんだろう。


「大丈夫か?」


「はい、これからピッチ上げます。」


「塚原くんは大変だよね、二刀流だもんね。」


先輩の厳しい声に、たじろいでいると、横から取り繕うように声を掛けてくれるのは木本(きもと)みどり先輩。名マネージャーの誉れ高く、明協黄金時代を支えたみどりさんは、在学当時から松本さんとベストカップルと言われ、いつも松本さんの側にいた。


高校時代から、そりゃお美しかったけど、昨シーズン終了後に松本さんと結婚し、姓も松本となったみどりさんは、大人の女性の色香を存分に漂わせ、やっぱり俺をたじろがせた。


その後、しばらく立ち話をしてから、2人と離れたあと、俺はフッと息をついた。


ドラフト指名後の記者会見でも言ったように、俺にとって松本さんは目標であり、また口はばったい言い方になるが、ライバル、と勝手に思っている。


実は何を隠そう、俺の彼女の由夏は、高校時代から松本さんの大ファンで、憧れの人だった。もちろん2人の間に、何かあったわけではないが、松本さんに熱い視線を送る由夏に、俺は複雑な思いを抱いたもんだった。


そんなこともあって、まさに一方的に、俺は先輩にライバル心を今も燃やし続けているというわけだ。


その「ライバル」からの耳の痛い指摘。俺は今更ながら、焦りを感じていた。
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