君の光に恋してる!~アイドルHinataの恋愛事情【1】~
21 いざ、純白の世界へ!
挙式も番組収録も無事に終了して、阿部さんの仕切りで夕方から二次会が行われることになったんだけれど。
諒くんが『どうしても行かなきゃいけないところがある』と言うので、私たちは二次会には最初に顔だけだして、式には来られなかった人もいるからみんなに挨拶して、すぐにその場を後にした。
その足で、自分たちが住んでいる地域の役所に行って、ふたりで婚姻届を提出して。
役所の人が、書類に不備がないかとか、記入されてることに間違いはないかとか確認して、受理してもらった。
意外と、あっさりしてるのね。
あまりに簡単に終わったから、私、思わず役所の人に、
「まさか、仕掛け人とかじゃないですよね?」
なんて聞いちゃって。
役所の人は当然、何の事だかわからずに「はぁ?」って感じで。
諒くんは、笑いをこらえるのに必死だった。
「……また、花本さんだ」
私は、携帯の着信表示を見てため息をついた。
役所から諒くんの部屋へ戻って(引越しなんてする余裕なかったから、とりあえず諒くんの部屋で生活しつつ、自分の部屋の荷物を整理することになった)、夕食の準備をしようかというところなんだけれど。
さっきから私の携帯に、花本さんからの電話がかかってくる。
これで、3回目だ。
最初は、今日の結婚式がどーのとか話してたんだけれど、途中から世間話にもならないような状態になってて。
おかげで、夕食の準備(もちろん、諒くんも手伝ってくれてるんだけど)なんて全然進みゃしない。
でも、相手は一応仕事の先輩にあたる人なので、出ないわけにもいかない。
「……もしもし。…………はい」
また、意味不明なことを言ってる。
二次会で飲みすぎて、酔ってるんじゃないかしら。
「ええ、……はいはい、そうですね。……あ、え?」
ふと、花本さんの声が聞こえなくなったなと思ったら、私が耳に当ててたはずの携帯が私の手からなくなってる。
振り向くと、諒くんが私の携帯を持って立っていた。
「諒くん? どうし…………あっ!」
諒くんは、無言で携帯を操作して、通話を切ってしまった。
「ん」
突っ返された携帯は、電源まで切られてる。
諒くんは、今度は自分の部屋の電話線まで引っこ抜いてしまった。
次に、部屋のインターホンの音量を最小にして(これは、電源までオフにできないらしい)。
最後に、自分の携帯を取り出して、なにやら操作した後、カバンに無造作に突っ込んだ。
私は、その諒くんの一連の行動を、ただ呆然と見守るだけ。
「みっちゃん、ここに座って」
と、自分が座り込んだ目の前の床を指した。
「え? でも夕食の準備は?」
「後でいい」
私は、仕方なく言われるままに、あぐらをかいて座っている諒くんの前に向き合って座った。
諒くんは、胸の前で腕を組んだまま、無表情で黙ってる。
『笑ってる』でもなく、『怒ってる』でもなく、『無表情』っていうのが、何を考えているのか分からなくて、ある意味一番怖い。
やがて、諒くんはうつむくと、3本の指を立てて、私の目の前に突き出した。
****
「3年」
指を3本立てて、彼女の顔の前に突き出した僕は、どう切り出したらいいのか迷いつつも、話し始めた。
「3年間、待ってたんだ。みっちゃんね、僕と付き合い始めてから、仕事でのキャラと本当の自分とのズレができちゃって、戸惑ってたでしょう?」
彼女は、『なんでわかったの?』といった表情になった。
それくらい、わかってるよ。
「だからね、……これ以上、先に進んだら、そのズレが大きくなって、キャラが保てなくなるんじゃないかなって思って。ちゃんと、芸人・道坂靖子が僕の彼女なんだって、世間の人が認めるまでは……って、ずっと、我慢してた」
彼女は、今度はきょとんとしてる。
僕の言いたいことが、伝わってないみたい。
ほんと、鈍い。
このまま話を続けるより、行動に出てしまった方が早い。
僕は、向かい合った位置から、彼女の隣に身体を移動させた。
「これは……危ないから、外しておいて」
彼女がかけている眼鏡を彼女の顔からゆっくりと抜き取って、脇にあるテーブルに置いた。
僕は、『これから何が起きるのか想像もできない』といった顔をしている彼女の肩を抱き寄せて、そして彼女の唇にキスをした。
その唇を塞いだまま、そっと彼女の頬に触れ、髪を撫でて、……指先でゆっくりと首筋をなぞる。
そして、胸元ギリギリのところで、その指を止めた。
「……わかった? 僕が何を我慢してたか」
彼女は返事もうなずきもしないけれど、その代わり顔がいままで見たことないくらい紅潮してる。
……やっと、わかってもらえたみたい。
「この間、記者会見もして世間の人には報告したし、今日の挙式で神にも認めてもらった。さっき、役所で婚姻届も出して、法的にも僕たち『夫婦』なんだ。それは、わかってる?」
「…………うん」
「もしかして、まだ心のどこかで、『ドッキリなんじゃないか?』なんて思ったりしてない?」
「それは…………ない……と思う……けど」
……はっきりとは否定しないんだ。
ま、別にいいけど。
「じゃぁ…………もう、我慢しなくていいんだよね?」
僕はそう言うと、彼女の答えも聞かずに、再び彼女の唇に自分の唇を重ねて。
3年間、一度も越えることのなかった彼女との一線を越えた。
そして、まだ誰にも踏み荒らされていない、真っ白な雪原の中へ――――。
****
…………ほんと、緊張した。
っていうか、頭の中真っ白になっちゃってて、ほとんど何も覚えてない。
諒くんは……我慢しててくれたんだ。
ちゃんと、私のことを考えてくれていたんだ。
それだけで、ものすごく幸せな気分だった。
私に触れる諒くんの指先も、諒くんの唇も……なんだかとっても心地よくて。
ほんの少しの恐怖心も、痛みも、全然苦にならなかった。
「……結構、降ってきたよ」
諒くんは、さっきからカーテンを少し開けて、外を見てる。
私は、ほったらかしになってた夕食の準備を再開してた(といっても、私が花本さんからの電話に悪戦苦闘している間に、諒くんがほとんど作り終えてしまっていたようなんだけど)。
今夜は、鍋だ。
「明日の朝には、きっと積もるんじゃないかな。…………ぅわ!」
ピシャンッっと窓が閉まる音がした。
「さっ……寒い……」
「窓開けたの?」
「うん」
「……その格好で?」
諒くんは、かろうじてジャージのズボンははいてるんだけど、上半身はいまだに裸のままだ。
自分の体質、わかってるのかしら。
「そろそろ、服着てよ。もうすぐ火も通るから、食べようよ」
「……うん」
返事はしたものの、諒くんはまだ窓越しに外を眺めてる。
「今度さぁ、温泉行こうか」
「温泉?」
「この間のお正月の特番で、みっちゃんが行ってたとこ」
「あぁ、あれ……」
「僕もね、昔番組のロケで行ったことがあるんだ。あの旅館の近くにある、お土産屋さんのとこに、へんなパンダいるでしょ?」
「もしかして、あの王冠かぶってるやつ?」
「知ってる? あのパンダ、しゃべるんだよ」
「ほんとに!?」
それまで窓の外を見てた諒くんは、私の反応を見て爆笑した。
……また、からかわれたんだ。
うなだれる私をよそに、ご機嫌な諒くんはシャツを着て、鍋のふたをあけた。
ほんと、諒くんって、よく理解できない。
諒くんが『どうしても行かなきゃいけないところがある』と言うので、私たちは二次会には最初に顔だけだして、式には来られなかった人もいるからみんなに挨拶して、すぐにその場を後にした。
その足で、自分たちが住んでいる地域の役所に行って、ふたりで婚姻届を提出して。
役所の人が、書類に不備がないかとか、記入されてることに間違いはないかとか確認して、受理してもらった。
意外と、あっさりしてるのね。
あまりに簡単に終わったから、私、思わず役所の人に、
「まさか、仕掛け人とかじゃないですよね?」
なんて聞いちゃって。
役所の人は当然、何の事だかわからずに「はぁ?」って感じで。
諒くんは、笑いをこらえるのに必死だった。
「……また、花本さんだ」
私は、携帯の着信表示を見てため息をついた。
役所から諒くんの部屋へ戻って(引越しなんてする余裕なかったから、とりあえず諒くんの部屋で生活しつつ、自分の部屋の荷物を整理することになった)、夕食の準備をしようかというところなんだけれど。
さっきから私の携帯に、花本さんからの電話がかかってくる。
これで、3回目だ。
最初は、今日の結婚式がどーのとか話してたんだけれど、途中から世間話にもならないような状態になってて。
おかげで、夕食の準備(もちろん、諒くんも手伝ってくれてるんだけど)なんて全然進みゃしない。
でも、相手は一応仕事の先輩にあたる人なので、出ないわけにもいかない。
「……もしもし。…………はい」
また、意味不明なことを言ってる。
二次会で飲みすぎて、酔ってるんじゃないかしら。
「ええ、……はいはい、そうですね。……あ、え?」
ふと、花本さんの声が聞こえなくなったなと思ったら、私が耳に当ててたはずの携帯が私の手からなくなってる。
振り向くと、諒くんが私の携帯を持って立っていた。
「諒くん? どうし…………あっ!」
諒くんは、無言で携帯を操作して、通話を切ってしまった。
「ん」
突っ返された携帯は、電源まで切られてる。
諒くんは、今度は自分の部屋の電話線まで引っこ抜いてしまった。
次に、部屋のインターホンの音量を最小にして(これは、電源までオフにできないらしい)。
最後に、自分の携帯を取り出して、なにやら操作した後、カバンに無造作に突っ込んだ。
私は、その諒くんの一連の行動を、ただ呆然と見守るだけ。
「みっちゃん、ここに座って」
と、自分が座り込んだ目の前の床を指した。
「え? でも夕食の準備は?」
「後でいい」
私は、仕方なく言われるままに、あぐらをかいて座っている諒くんの前に向き合って座った。
諒くんは、胸の前で腕を組んだまま、無表情で黙ってる。
『笑ってる』でもなく、『怒ってる』でもなく、『無表情』っていうのが、何を考えているのか分からなくて、ある意味一番怖い。
やがて、諒くんはうつむくと、3本の指を立てて、私の目の前に突き出した。
****
「3年」
指を3本立てて、彼女の顔の前に突き出した僕は、どう切り出したらいいのか迷いつつも、話し始めた。
「3年間、待ってたんだ。みっちゃんね、僕と付き合い始めてから、仕事でのキャラと本当の自分とのズレができちゃって、戸惑ってたでしょう?」
彼女は、『なんでわかったの?』といった表情になった。
それくらい、わかってるよ。
「だからね、……これ以上、先に進んだら、そのズレが大きくなって、キャラが保てなくなるんじゃないかなって思って。ちゃんと、芸人・道坂靖子が僕の彼女なんだって、世間の人が認めるまでは……って、ずっと、我慢してた」
彼女は、今度はきょとんとしてる。
僕の言いたいことが、伝わってないみたい。
ほんと、鈍い。
このまま話を続けるより、行動に出てしまった方が早い。
僕は、向かい合った位置から、彼女の隣に身体を移動させた。
「これは……危ないから、外しておいて」
彼女がかけている眼鏡を彼女の顔からゆっくりと抜き取って、脇にあるテーブルに置いた。
僕は、『これから何が起きるのか想像もできない』といった顔をしている彼女の肩を抱き寄せて、そして彼女の唇にキスをした。
その唇を塞いだまま、そっと彼女の頬に触れ、髪を撫でて、……指先でゆっくりと首筋をなぞる。
そして、胸元ギリギリのところで、その指を止めた。
「……わかった? 僕が何を我慢してたか」
彼女は返事もうなずきもしないけれど、その代わり顔がいままで見たことないくらい紅潮してる。
……やっと、わかってもらえたみたい。
「この間、記者会見もして世間の人には報告したし、今日の挙式で神にも認めてもらった。さっき、役所で婚姻届も出して、法的にも僕たち『夫婦』なんだ。それは、わかってる?」
「…………うん」
「もしかして、まだ心のどこかで、『ドッキリなんじゃないか?』なんて思ったりしてない?」
「それは…………ない……と思う……けど」
……はっきりとは否定しないんだ。
ま、別にいいけど。
「じゃぁ…………もう、我慢しなくていいんだよね?」
僕はそう言うと、彼女の答えも聞かずに、再び彼女の唇に自分の唇を重ねて。
3年間、一度も越えることのなかった彼女との一線を越えた。
そして、まだ誰にも踏み荒らされていない、真っ白な雪原の中へ――――。
****
…………ほんと、緊張した。
っていうか、頭の中真っ白になっちゃってて、ほとんど何も覚えてない。
諒くんは……我慢しててくれたんだ。
ちゃんと、私のことを考えてくれていたんだ。
それだけで、ものすごく幸せな気分だった。
私に触れる諒くんの指先も、諒くんの唇も……なんだかとっても心地よくて。
ほんの少しの恐怖心も、痛みも、全然苦にならなかった。
「……結構、降ってきたよ」
諒くんは、さっきからカーテンを少し開けて、外を見てる。
私は、ほったらかしになってた夕食の準備を再開してた(といっても、私が花本さんからの電話に悪戦苦闘している間に、諒くんがほとんど作り終えてしまっていたようなんだけど)。
今夜は、鍋だ。
「明日の朝には、きっと積もるんじゃないかな。…………ぅわ!」
ピシャンッっと窓が閉まる音がした。
「さっ……寒い……」
「窓開けたの?」
「うん」
「……その格好で?」
諒くんは、かろうじてジャージのズボンははいてるんだけど、上半身はいまだに裸のままだ。
自分の体質、わかってるのかしら。
「そろそろ、服着てよ。もうすぐ火も通るから、食べようよ」
「……うん」
返事はしたものの、諒くんはまだ窓越しに外を眺めてる。
「今度さぁ、温泉行こうか」
「温泉?」
「この間のお正月の特番で、みっちゃんが行ってたとこ」
「あぁ、あれ……」
「僕もね、昔番組のロケで行ったことがあるんだ。あの旅館の近くにある、お土産屋さんのとこに、へんなパンダいるでしょ?」
「もしかして、あの王冠かぶってるやつ?」
「知ってる? あのパンダ、しゃべるんだよ」
「ほんとに!?」
それまで窓の外を見てた諒くんは、私の反応を見て爆笑した。
……また、からかわれたんだ。
うなだれる私をよそに、ご機嫌な諒くんはシャツを着て、鍋のふたをあけた。
ほんと、諒くんって、よく理解できない。