君の光に恋してる!~アイドルHinataの恋愛事情【1】~
04 今のリアクション、60点
諒くんは、今回もかなり派手に風邪を引いていた。
玄関で私を出迎えてくれた諒くんは、いきなりその場に座り込んでしまった。
なんとか自力で歩いて、ベッドへと戻ろうとするんだけど、全然別の方向へと歩いてしまって、壁やらテーブルやらに何度もぶつかってしまう。
あまりにも危なっかしいので、私が諒くんの身体を支えて、ベッドまで連れていったんだけど、ベッドの端に腰掛けるだけでも、結構時間がかかった。
私が玄関のチャイムを押してから、諒くんがドアを開けるまでには、たいして時間がかからなかったと思うんだけど。
こんな状態で、どうやって玄関まで来れたんだろう?
……そんな私の素朴な疑問をよそに、諒くんは私が買ってきたスポーツドリンクとバニラのアイスクリームをあっという間に平らげてしまった。
「食欲はあるのね」
「ん……、昨日の夜から……何も食べてないからね、さすがに……」
「雑炊でも作ろうか? 材料ある?」
「材料……ない……と思う。……最近、買い物に……行けてなくて」
「なにか買ってこようか?」
「……いい。多分、これ以上は……食べられないと思うし……」
と言って、諒くんはベッドにもぐり込もうとした。
「あ、ちょっと待って。寝るなら、その前に……」
私、諒くんの目の前に、買ってきた薬を突き出した。
「……飲みたくない」
「だめよ。ちゃんと飲まなきゃ、治らないわよ?」
「………………」
「病院行く? 今なら、雨も小降りだし」
「……行きたくない」
「じゃぁ、どうするのよ?」
「……自力で治す」
「どうやって?」
諒くんは少しの間、じっと黙っていたんだけれど。
結局、無言のままベッドにもぐり込んでしまった。
「…………手」
「ん?」
「……手、貸して。みっちゃんの」
諒くんはベッドの中から自分の手を差し出して。
私の返事も聞かないうちに私の手を握って、そして、眠ってしまった。
……いつも、こうだ。
いつも、風邪を引くと、こうして私の手を握ったまま2、3時間眠って。
起きた頃には、どういうわけか熱は下がってる。
ほんとに自力で治しちゃうなんて、いったいどういう身体の構造してるんだろう?
諒くんは、謎だらけだ。
基本的に、かっこいいし、私よりずいぶん年下だけど、すごくしっかりしてるし(薬や病院を嫌がるあたりは、とても子供っぽいけど)、そして、なによりやさしい。
だけど時々こんな、『あの、ちょっとよく理解できないんですけど?』みたいなことがある。
最初は、頑張って理解しようとあれこれ努力してた。
それは、どういうこと? っていろいろ考えをめぐらせて、ときには諒くん本人に問い詰めてみたりもした。
でも、その度にはぐらかされ、あまりしつこくすると、諒くんはとたんに機嫌が悪くなってしまう(……で、数分後には普通にしてる)。
そのうち、どう努力していいのかもわからなくなってしまって。
いつしか、『この謎めいたところが、諒くんの魅力なんだ』と思うようになっていた。
……半分は、諦めでもあるけど。
そんなことを考えながら、私は諒くんに手を握られたままでは買い物に出かけることもできず。
そのまま、諒くんの横(ベッドの中じゃないわよ、残念ながら)で、眠ってしまった。
目が覚めたら、僕の熱はすっかり引いていた。
……どのくらい、眠っていたんだろう。
窓の外を見ると、今日は天気が悪いから空はいくらか暗いんだけれど、たぶん、夕方の5時くらいだ。
とすると、眠っていたのは、やっぱり3時間くらいか。
身体を起こそうとして、彼女が僕のそばで座り込んで眼鏡をかけたまま眠っていることに気づく。
僕は、握ったままだった彼女の手をそっと離した。
そして、彼女の寝顔を、しばらく間近で見ていた。
……いや、見ていた、というよりは、彼女が目を覚ましたときに、間近に僕の顔があったらどんな反応をするんだろうか、なんてイタズラ心で、顔を近づけていた、といったところだ。
そのまま、5分……。
10分……。
15分……、そろそろ飽きてきた。
「…………みっちゃん」
「………………………………ん……? えっ……うわっ! びっくりした!」
起きた。
うぅぅん……。芸人としては、リアクションがもうちょっとな感じだったけれど、今はプライベートだから、こんなもんかな。
「諒くん、起きてたんだ」
「ついさっきね」
「そっか。熱は、下がった?」
「ん、もうすっかり」
「そう、よかった。ごめんね、私まで寝ちゃって」
「…………60点」
「……何が?」
「起きたときの、リアクション」
「…………リアクションって。仕事中じゃないんだから」
彼女は一瞬、不機嫌な顔になったけれど、その後ちょっと考えて、
「……ねぇ、その60点って」
「ん?」
「……やっぱり、ちょっと……微妙な数字よね? いまいちだった?」
僕がつけた点数が気になるらしい。
「んー……、そうだね、ちょっと……ね」
「そっか……。そうだよね…………」
彼女は額に手を当てて、うぅん……と考え込んでしまった。
「……みっちゃん」
「ん?」
「……みっちゃんは、さぁ。リアクション芸人じゃないんだから、いいんじゃない?60点で」
「……そ、そう?」
僕は、少しほっとした表情の彼女の身体を引き寄せて、僕の隣(つまり、ベッドの端っこ)に座らせた。
熱がすっかり下がっていることは、体温計で測らなくてもわかるけれど、かわりに、身体に少しだるさが残っていて。
そういうときって、なんだか人肌が恋しくて。
……気づくと、僕は彼女を抱きしめていた。
彼女は、いま自分の身に何が起きているの?といった感じで、僕の腕の中で身体を硬直させている。
……この……状況で。
このままでは…………。
…………いや、でも…………しかし。
いまは、まだ…………やっぱり…………マズイ。
僕は、彼女からゆっくりと身体を離した。
彼女の顔を、まともに見られない。
「……もうすぐ、本降りになるんじゃないかな」
「え?」
「……外」
「あ、雨……」
これじゃぁ、暗に、『帰ってくれ』って言っているようなものだ。
本当は、もっとそばにいてほしいのに。
玄関で私を出迎えてくれた諒くんは、いきなりその場に座り込んでしまった。
なんとか自力で歩いて、ベッドへと戻ろうとするんだけど、全然別の方向へと歩いてしまって、壁やらテーブルやらに何度もぶつかってしまう。
あまりにも危なっかしいので、私が諒くんの身体を支えて、ベッドまで連れていったんだけど、ベッドの端に腰掛けるだけでも、結構時間がかかった。
私が玄関のチャイムを押してから、諒くんがドアを開けるまでには、たいして時間がかからなかったと思うんだけど。
こんな状態で、どうやって玄関まで来れたんだろう?
……そんな私の素朴な疑問をよそに、諒くんは私が買ってきたスポーツドリンクとバニラのアイスクリームをあっという間に平らげてしまった。
「食欲はあるのね」
「ん……、昨日の夜から……何も食べてないからね、さすがに……」
「雑炊でも作ろうか? 材料ある?」
「材料……ない……と思う。……最近、買い物に……行けてなくて」
「なにか買ってこようか?」
「……いい。多分、これ以上は……食べられないと思うし……」
と言って、諒くんはベッドにもぐり込もうとした。
「あ、ちょっと待って。寝るなら、その前に……」
私、諒くんの目の前に、買ってきた薬を突き出した。
「……飲みたくない」
「だめよ。ちゃんと飲まなきゃ、治らないわよ?」
「………………」
「病院行く? 今なら、雨も小降りだし」
「……行きたくない」
「じゃぁ、どうするのよ?」
「……自力で治す」
「どうやって?」
諒くんは少しの間、じっと黙っていたんだけれど。
結局、無言のままベッドにもぐり込んでしまった。
「…………手」
「ん?」
「……手、貸して。みっちゃんの」
諒くんはベッドの中から自分の手を差し出して。
私の返事も聞かないうちに私の手を握って、そして、眠ってしまった。
……いつも、こうだ。
いつも、風邪を引くと、こうして私の手を握ったまま2、3時間眠って。
起きた頃には、どういうわけか熱は下がってる。
ほんとに自力で治しちゃうなんて、いったいどういう身体の構造してるんだろう?
諒くんは、謎だらけだ。
基本的に、かっこいいし、私よりずいぶん年下だけど、すごくしっかりしてるし(薬や病院を嫌がるあたりは、とても子供っぽいけど)、そして、なによりやさしい。
だけど時々こんな、『あの、ちょっとよく理解できないんですけど?』みたいなことがある。
最初は、頑張って理解しようとあれこれ努力してた。
それは、どういうこと? っていろいろ考えをめぐらせて、ときには諒くん本人に問い詰めてみたりもした。
でも、その度にはぐらかされ、あまりしつこくすると、諒くんはとたんに機嫌が悪くなってしまう(……で、数分後には普通にしてる)。
そのうち、どう努力していいのかもわからなくなってしまって。
いつしか、『この謎めいたところが、諒くんの魅力なんだ』と思うようになっていた。
……半分は、諦めでもあるけど。
そんなことを考えながら、私は諒くんに手を握られたままでは買い物に出かけることもできず。
そのまま、諒くんの横(ベッドの中じゃないわよ、残念ながら)で、眠ってしまった。
目が覚めたら、僕の熱はすっかり引いていた。
……どのくらい、眠っていたんだろう。
窓の外を見ると、今日は天気が悪いから空はいくらか暗いんだけれど、たぶん、夕方の5時くらいだ。
とすると、眠っていたのは、やっぱり3時間くらいか。
身体を起こそうとして、彼女が僕のそばで座り込んで眼鏡をかけたまま眠っていることに気づく。
僕は、握ったままだった彼女の手をそっと離した。
そして、彼女の寝顔を、しばらく間近で見ていた。
……いや、見ていた、というよりは、彼女が目を覚ましたときに、間近に僕の顔があったらどんな反応をするんだろうか、なんてイタズラ心で、顔を近づけていた、といったところだ。
そのまま、5分……。
10分……。
15分……、そろそろ飽きてきた。
「…………みっちゃん」
「………………………………ん……? えっ……うわっ! びっくりした!」
起きた。
うぅぅん……。芸人としては、リアクションがもうちょっとな感じだったけれど、今はプライベートだから、こんなもんかな。
「諒くん、起きてたんだ」
「ついさっきね」
「そっか。熱は、下がった?」
「ん、もうすっかり」
「そう、よかった。ごめんね、私まで寝ちゃって」
「…………60点」
「……何が?」
「起きたときの、リアクション」
「…………リアクションって。仕事中じゃないんだから」
彼女は一瞬、不機嫌な顔になったけれど、その後ちょっと考えて、
「……ねぇ、その60点って」
「ん?」
「……やっぱり、ちょっと……微妙な数字よね? いまいちだった?」
僕がつけた点数が気になるらしい。
「んー……、そうだね、ちょっと……ね」
「そっか……。そうだよね…………」
彼女は額に手を当てて、うぅん……と考え込んでしまった。
「……みっちゃん」
「ん?」
「……みっちゃんは、さぁ。リアクション芸人じゃないんだから、いいんじゃない?60点で」
「……そ、そう?」
僕は、少しほっとした表情の彼女の身体を引き寄せて、僕の隣(つまり、ベッドの端っこ)に座らせた。
熱がすっかり下がっていることは、体温計で測らなくてもわかるけれど、かわりに、身体に少しだるさが残っていて。
そういうときって、なんだか人肌が恋しくて。
……気づくと、僕は彼女を抱きしめていた。
彼女は、いま自分の身に何が起きているの?といった感じで、僕の腕の中で身体を硬直させている。
……この……状況で。
このままでは…………。
…………いや、でも…………しかし。
いまは、まだ…………やっぱり…………マズイ。
僕は、彼女からゆっくりと身体を離した。
彼女の顔を、まともに見られない。
「……もうすぐ、本降りになるんじゃないかな」
「え?」
「……外」
「あ、雨……」
これじゃぁ、暗に、『帰ってくれ』って言っているようなものだ。
本当は、もっとそばにいてほしいのに。