転生したら、モブでした(涙)~死亡フラグを回避するため、薬師になります~
会場から出て、長い廊下を進み、螺旋階段を上る。たどり着いた先は、ローデンヴァルト先生の工房だという。

魔法で魔石灯の灯りを点ける。すると、真っ暗だった部屋が、明るく照らされた。

そこは、きっちり整理整頓された清潔な工房だった。壁には棚が並び、瓶詰めされた薬草や素材が確認できる。調薬は魔法でするからなのか、道具はほとんどない。

作業用の細長いテーブルに、魔法釜、ひとり掛け用の椅子、本棚があるばかりの、シンプルな工房である。
 
ローデンヴァルト先生はひとつしかない椅子を、私に勧めてくれた。慣れない踵が高い靴で、若干足が疲れていた。お言葉に甘えて、腰を下ろさせてもらう。

「不快な思いをさせた」

「え?」

「クロード・フォン・アラビガムのことだ」

「ああ……」

なんだか、ローデンヴァルト先生をライバル視しているように思えた。そんな率直な感想を口にすると、ライバルではなく、敵対視だとぼやくように言った。

「同じ薬師のもとで同時期に見習いになって、先に俺が国家魔法薬師になったんだ。ずっと、奴は俺のやることなすことに文句を付けて、嫌味を言ってくる」

「そうだったんだ」

なんとも気の毒な話である。いくら同じ道を目指していても、ニコラやフロレンツィアみたいに、仲良くなれるとは限らないようだ。
「でも、あの人が言っていることも、あながち間違いではないというか……その、結婚相手探しという点で、だけれど。私も、貴族の端くれだから」

私の代で子爵家が断絶となったら、爵位は国に返さなければならない。歴史だけは無駄にあるリリエンタール子爵家を途絶えさせるわけにはいかない、というのが父のたったひとつの願いである。
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