転生したら、モブでした(涙)~死亡フラグを回避するため、薬師になります~
とんでもない修羅場を前に、ガクブルと震えてしまう。“魔法薬学科”の校舎行きの馬車の時間が迫っていたので、急がなければ。

速歩で通り過ぎようとしていたのに、ニコラが私に気付いて声をかけてしまった。

「グレーテ様!!」

皆の注目が、私に集まった。そのほとんどが、「あいつ誰?」という眼差しであったが。

ニコラは涙目で、私を見つめている。この修羅場から、助けてくれと訴えているのだろう。雨の日に捨てられた犬のような瞳を向けないでほしい。いくら私でも、この場を収めるのは難しいだろう。  

「あら、あなた。グレーテ・フォン・リリエンタールではありませんか」

 
フロレンツィアまで、私に気付いてしまった。もう、逃げられないだろう。観念して、ぎこちない笑顔を向けつつ、「おはよう」と片手を挙げつつ挨拶する。

「なんだ、お前は。突然、割り込んで」

「私は――その」

ニコラは眦に涙を溜め、あと二回ほど瞬きしたら泣きそうだった。

フロレンツィアも、額に青筋を立てている。よくよく見たら、お腹を押さえているように見えた。おそらく、また腹痛に襲われているのだろう。

気の毒な彼女らを、見捨てることなんてできない。

「おふたりに、話があって!!」


そう叫び、ニコラとフロレンツィアの手を掴んだ。そして、走りだす。

「おい、ふたりをどこへ連れていくのだ! 追え!」
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