ドラゴン・ノスタルジア
 梅ばあちゃんがやっと、私達のすぐ側に着いた。

「…一体、何をする…つもりです、大地」

 私は梅に近づき、苦しそうに息を切らせた彼女の背中をさすった。

「さくらを元気にしたい」

 真剣な口調で大地は答えた。

「そのために?あなたは一番いけない時に、この世界に現れてしまったのですよ?」

「好きな女を元気に出来なきゃ、生き物として失格だろ?」

 今、サラッと大地、
 『好きな女』って言った…?

「…久遠(くおん)様が、何と仰るか!」

 私は状況がわからず、ただオロオロしてしまった。


 そこに。


 神社の方から白髪で年齢不詳の、ぞっとする様な威厳と強さを感じさせる男性が、こちらへと歩いて来た。

「今、聞いた」


「久遠様!」


 梅に『久遠様』と呼ばれた美しい男性は、大地と似た様な白い装束を身に纏っている。

「大地、この世界でドラゴンに変身するな」

「…父さん。どうして?」

 久遠様は大地に向かって両手を広げ、何かを唱えた。

「うわ…っ!」

 熱を持つ暴風が、大地に向かって襲いかかった。

 大地は宙へ飛び、地面へと叩きつけられた。

「大地!!」

 私は大地に駆け寄った。

「神々の裁きを受けたいか?ここは人間の世界だ!」


 久遠様は、神社の奥へと戻って行った。


「大丈夫?」


「…ああ」


 大地は頷き、悲しそうに俯いた。

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