ドラゴン・ノスタルジア
 社務所から外へ出て、桜の木の下に立った大地は、両腕を空高く掲げた。

 神社の中は夜の闇に包まれ、
 ひんやりとした静けさの中。

 目を瞑り、
 彼が何かの言葉を呟いた途端。

 空の上から霧雨の様にきらきらと輝く小さな雨が、音を立てずに彼の周りにだけ一斉に降り注いだ。

 その両腕を桜の木の方へ、祈りを捧げる様に伸ばし、彼が静かに目を開いたその途端。
 

「…見てごらん、さくら」


 きらきら輝く霧雨は、
 大きな桜に纏いついた。


「……!」


 桜の木は動物の様に勢いよく動めき、みるみるうちに一斉に、美しい花を咲かせ始めた。


「………わぁ…!」


 咲かせただけではない。


 花びらが落ちては次の蕾へ。
 落ちてはまた、次の蕾へと。


 次から次へと、新しい花が生まれて来る。


 狂い咲きだ。


「すごい…大地…!」


 私は、いつの間にか笑っていた。


「久しぶり…。こんな気持ち…」

 
 どうして、忘れてたんだろう。

 
 全身に血が廻った様な。


 生きている有難さを
 確認できた様な。


 何かに期待するみたいに。


 嬉しくて幸せで、
 楽しみで仕方無くて、

 
 鼓動の奥から
 力の源泉が、


 次から次へ
 湧き上がって来る。


 抑えられない
 衝動が溢れて来る。


「綺麗…」


 私の顔を、大地が見つめた。
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