ドラゴン・ノスタルジア
 神社の本殿の中に入り、久遠様は蝋燭に灯をともした。

「大地はいわれのない理由で拉致監禁され、事あるごとに隔離室に入れられた」

 梅はため息をつきながら大地の服を脱がせ、霊水で拭いてから新しい白装束に着替えさせた。

「探し出すのに、とても苦労しました」

 子供の大地は、不思議そうに3人を見つめた。

「ごめんなさいね、大地。…あなたを守れなくて、ひどい目に遭わせて」

 弥生さんは大地の手を握りながら、目に涙を浮かべている。


「…………おれ、ビョーキじゃないの…?」


 久遠様は首を横に振った。


「お前は健康そのものだよ。あの一握りの、狂った神達よりも」


 大地は目を見開いた。


「私は久遠。お前の父だ」


「お父さん」


「彼女が弥生。お前の母だ」


「お母さん」


「私は梅です。あなたにはこれから、私が作った城に住んでいただきましょう」


「梅」


「あそこは人間の世界と神々の世界の、中間地点ですから。夏祭りの時だけ、あなたは自由に行き来できますよ」


「人間とドラゴンのハーフは珍しいが、大人になったら変身できる。もっと自由に行き来もできる。あの城で学ぶといい」

 久遠様は一言だけ、注意をした。

「だが人間の世界では、決して変身しない事。見つかると大変な事になる」


「…うん」


 久遠様と弥生さんは目を見合わせ、微笑んだ。


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