ドラゴン・ノスタルジア
「あなたを元の世界に送っていきます。大人のさくら」

 梅が私に、優しく声をかけてくれた。


「ありがとう、梅ちゃん!」


 それを聞いた梅は、妙な顔をした。

「…どうして婆の私を『ちゃん』呼ばわりなのです?」


「そう呼べって梅ちゃんが言ったんだよ?…可愛い呼び方なら、若返った気分になって嬉しいからって!」


「…そうだったんですか?」


「そうだったんです!」


 納得出来ない顔で梅は苦笑し、聞いてきた。


「…神がひとつだけ願いを叶えて下さるとしたら、何を願いますか?さくら」


 私は少し、考えてしまった。


「願いたい事なんて、今まで無かったんだけど」


 毎日通った神社の拝殿で、神様に私から『願い』を伝えなかったのは、


「今なら、ひとつだけあるかも」


 決して、神という存在を、信じていなかったからじゃない。



「みんなが寂しくてつらい思いを、しなくて済みますように」



 本物の力は、感謝から生まれた気持ちにしか込められない。




「…それだけかな」




 私はそう、信じていたから。






『あそぼうよ!』

 はじめて会った時、私はあの子に声をかけた。

『あっちに、おともだちもいるの』

 すごく、話してみたかったから。


『うん!』


 彼の笑顔を、見てみたかったから。


 会えて、嬉しかったから。


 
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