ドラゴン・ノスタルジア
 『カフェ・ノスタルジア』の前で、私は地面に降ろされた。

「…はい、着いた」

 ここは私の両親が経営しているカフェ。神社から続く参道の、坂のふもとに建っている。

「さくらのご両親に挨拶しておくか」


 振り向くと大地は人間の姿に戻っており、さっさとドアを開けて店の中へと入っていく。…いつの間に変身したんだろう?!


 隠れ家的な落ち着いた店内に足を踏み入れ、あたりを見回しながら彼は、

「ここ、いっぺん入ってみたかったんだ」

 と嬉しそうに呟いた。

 赤煉瓦のバーテンションや内装が懐かしい雰囲気を生み出しているカフェ『ノスタルジア』は、常連さんが2名ほどコーヒーを飲んでいるほか、誰も客がいなかった。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの中でグラスを磨いていた父・露木英吾は、私と一緒にいる大地を見て一瞬、ぎょっとした表情を見せた。

「君は…」

「大地です」

 驚いた事に、父に対する大地の言葉遣いが敬語になった。

「大地?…という事は…」

「さくらの婚約者です」

「お父さん、大地が『婚約者』って…何かの間違いだよね?」

 私が聞くと父は首を横に振り、衝撃的な返事をした。

「ピンク色の髪の大地…。お前の婚約者だ」

 ……!

「どうして今、人間の姿に…?」

 父に聞かれ、大地は笑顔で答えた。


「さくらに、助けを求められた気がしたからです」



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