消えたい俺と犬
先輩は、笑いそうになるのを堪えている。俺、義母さんから、この話を聞いた時、本当に笑った。

「笑えますよね。義理の妹は、ネーミングセンスが独特なんですよね。たまたまいた野良猫を、サンドイッチって呼んでましたし……酷い時なんか、生ハムって呼んでました」

「ふっ……あ、ははっ」

先輩は堪えきれなくなったようで、吹き出す。俺もつられるように、笑った。

「面白いね、その妹さん……」

「でしょ?先輩とこは、何て名前なんですか?」

「俺?俺んとこは、フランソワ」

そんな話をしながら、俺は手を動かした。



「パスタ!怖がらなくていいんだよ?」

俺が家に帰ると、リビングの端で紗奈が一匹の犬に向かって話しかけていた。

「……あ、おかえり。お義兄ちゃん……この子、保健所からもらって来たんだけど……昔、飼い主から虐待を受けていたんだって……」

紗奈の言葉に、俺の心臓が嫌な音を立てる。ぎゃ……くた……い?

その言葉に、母さんからされたことを思い出して、体の震えが止まらなくなった。俺の息が、乱れている。

「……っ」

その様子をじっと見つめ、恐らくベーコンと同じボーダー・コリーの犬は、俺に近づいた。
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