悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
 一刻も早くリシャールに食事を届けるためには、調理に時間はかけられない。大慌てで自室に駆け込みんだカルミアは素早くエプロンを装着すると迷わず食パンに手を伸ばした。
 毎朝の食事にと考えて購入したものだが、今はリシャールのために役立てたいと思う。ブロックのまま多めに購入したのは正解だった。
 食パンは薄くスライスし、リンゴジャムをぬっていく。

(でもやっぱり、甘いのだけっていうのもね)

 リシャールは食事がまだだと言っていた。つまりこれが夕食になるということだ。

(それなのに甘いものだけっていうのもね。しっかり栄養もとってもらわないと!)

 カルミアの配慮から、急遽具材が増えていく。
 保冷庫から取り出したのはベーコンに卵、クリームチーズだ。それらを具材にしてパンに載せ、もう一枚で蓋をする。
 出来上がったものをバスケットに詰め込むと、こちらも大慌てでリシャールの元へ戻った。

「お待たせしました!」

 差し入れを手に戻るとリシャールは変わらず机に向かい仕事をこなしていた。
 たった一人で遅くまで。食事を疎かにするのは良くないが、真面目で仕事熱心な人だとカルミアは好感を抱く。

「お疲れ様です。少し休憩にしませんか? よければお茶も入れますよ」

 校長室には簡単なキッチンも備え付けられているようだった。

「すみません。食事だけでなく飲み物まで」

 リシャールが申し訳なさそうに眉を下げる。けれどこれはカルミアが自らやりたいと望んだことだ。誰に命令されたわけでもない。自分の意志で、この人のために何かしてあげたいと思った。

「校長先生の仕事を手伝うことは出来ませんから、せめて他のことで力になりたいと思ったんです。リシャールさんが倒れないように、ちゃんとご飯を食べさせることくらいは私にも出来ますからね。それに謝罪より、私が聞きたい言葉は別にありますよ」

 カルミアの望みはしっかりとリシャールに伝わっていた。

「私が無粋でしたね。ありがとうございます、カルミアさん。ではお言葉に甘えて、いただきます」

 リシャールがサンドイッチに手を伸ばす。
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