悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました
「違うの! 姿が見えたから嬉しくて声をかけただけ。驚かせて本当にごめんなさい」

「それだけで私を呼び止めたんですか? おかしな人……」

 レインは未だに理解が出来ないという顔をしているが、友達に会えば声を掛けるのはカルミアにとっては自然なことだ。

「レインさんはこんな時間にどうしたんですか?」

「どうしても調べたいことがあったんです。それで資料室にこもっていたら、こんな時間で……」

「勉強熱心なんですね。今から帰るのなら途中まで一緒に」

「い、いえ! 私、まだ帰れません。まだ、忘れ物が……私のことは気にせず先に帰って下さい!」

 レインはカルミアの返答を聞かずに背を向けて走り出す。まるで触れてくれるなと言わんばかりの態度であった。

「えっと、気を付けてね!」

 せめてその場から声を掛けるとレインの足が止まる。しかし振り返ることなく駆け出して行った。

(そういえばあの子、結局学食には来てくれなかったわね)

 賑やかな場所は嫌いなのかもしれない。けれどカルミアは次に会えたのならもう一度誘おうと決めていた。営業は諦めないが鉄則だ。

 部屋に戻ったカルミアは、まずカレンダーに予定を記入することから始めた。大切な職員会議の予定を忘れるわけにはいかない。

「えっと、会議は明後日ね」

 カレンダーを眺めたカルミアは、その日付を目にしたことで固まる。

「明後日リシャールさんの誕生日!?」

 何故知っているのかといえば、キャラクターのプロフィールを読んだからである。何故記憶しているかといえば、前世の母親と同じ誕生日だったから覚えていたというわけだ。

(ケーキを作ったらリシャールさんは食べてくれるかな……)

 そんなことを考えたのが昨日の夜。
 翌日学食ではドローナによるデザート議論が白熱していた。

「デザートよ! デザートの品をもっと増やすべきだわ! そうすれば女の子たちは喜ぶし、私も喜ぶわ。この学食に足りないのはデザートよ。そうすればもっともーっと賑わうんだから!」

「僕はもっとお肉が食べられたらいいなって思います。安くて美味しい肉料理! これって最高じゃないですか!?」

 ドローナに続いてロシュも意見を口にする。ただしドローナの主張とはだいぶ違うようだ。

「あたしはもっと胃に優しい食べ物がほしいね。最近の食べ物は味が濃すぎるんだよ」

 そして何食わぬ顔で二人の意見を却下させようとするのがベルネである。

「そうねえ……」

 三者三様の意見はカルミアの頭をおおいに悩ませていた。
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